気まぐれな管理人による雑文サイト。Web小説「Rebirth」連載中 (笑)

茶色い犬(通称「茶色いの」)が実家に来た日のこと

2017年11月22日  2017年11月22日 
2年前の11月21日のこと。
勤労感謝の日が月曜日にかかっており、わたしは連休を口実に帰省していた。

当時実家では、先代の犬(色は白いのだが紛らわしいので「先代」としておこう)が健在だった。
先代は高校受験の歳から実家にいた、当時20歳の超高齢犬である。
しかし半年くらい前から頻繁にけいれん発作を起こすようになったので、いざというときに備えて、わたしは暇を見つけては帰省していた。

その日の夜も、先代は発作を起こした。
数日前に大きな発作を起こしたばかりなのに、その間隔が日ごとに狭まっている。
発作を起こすたび身体には負担がかかるので、先代の衰弱は誰の目にも明らかであった。

やがて先代を抱っこする母親が、ポロポロと大粒の泪をこぼし始める。
「このまま弱っちゃうのかなぁ」
「この子がいなくなったら困るなぁ」
「お母さん、どうしたらいいか分からないよ」
口にすればするほど泪は止まらなくなるようで、先代が回復するまで、ずっと母は先代に涙声で話しかけていた。


そんな出来事があった次の日、わたしは珍しく両親の買い物に同行していた。
よく行くスーパーマーケットはそこそこ大きな店舗で、建物内にペットショップがあるのだ。
二匹目を飼うつもりもないのに、ショップに立ち寄っては犬を眺めては、目に留まった子犬を抱っこするのが、当時の両親の日課だった。

嬉々として子犬を抱っこする両親とは対照的に、わたしは抱っこされている子犬を軽く撫でる程度でショップを後にしていたように記憶している。
それは「(まだ健在なのに)先代に失礼だ」とか「生き物の売買が気に入らない」とかいった理由ではない。
ただ単に「連れて帰るつもりもない子犬を抱っこするのはイヤだ」との気持ちが強かっただけだ。(抱っこすると情が移ってしまうからね。笑)

その日も両親はショップへまっしぐら。わたしも後を追う。
何の気なしにケージを眺めていると、一匹の子犬が目に入った。
茶色い、そして先代と同じ犬種の子犬が、仰向けに、伸びやかに眠っている。
小さな足やしっぽをプルプルと震わせながら、その子犬は無防備に眠っている。
実は同じ犬種の子犬がもう一匹いた(色は覚えていない)のだが、なぜか無性に、その子犬に目が吸い寄せられた。

母が「どれか抱っこする?」と、わたしに問いかけた。
わたしは無意識に「これ」と、その茶色い子犬を指さした。

スタッフに申し出て、しばらくの間の後、茶色い子犬が出てきた。
手指を消毒し、両手で包み込むように抱っこした。

首筋までよじ登ってきて、一心に口元を舐めてきた。
子犬特有の匂いと柔らかい毛が鼻をくすぐる。

わたしは彼の目を見ながら「うちに来る?」と語りかけていた。
驚いたようにわたしの顔を見て、慌てる母。

とりあえずスタッフにお礼を述べてショップを後にし、食料品を買い込む。
その日の買い物中は、なぜか犬のことしか話していなかったように記憶している。
先代が小さかった頃の話。
なぜか犬嫌いだった先代の話。
すっかり歳をとってしまった先代の話。
もう一匹いれば先代は少し元気を取り戻すかもしれない。
やがてレジに並ぶ頃には、両親もわたしも、彼を連れて帰る腹づもりでいた。
車に食料品を積み込んでショップへ急ぐ。

――そして。
「すみません。もう一度、この子を抱っこさせてください」と申し出る。

――数分後。
「うちに連れて帰ります」と伝えた。
ケージ、食器、トイレシート、とりあえずのおもちゃを物色し、再びレジに走る。

――数時間後。
家に連れて帰り、彼は先代と初めての顔合わせをした。
彼は「うちの子」になったのだ。

――それから半年後。
彼と母とわたしが見守るその前で、先代は息を引き取った。


たとえば愛犬との出会いを「運命的」と表現するのって、なんとなく陳腐でありふれた表現だと常々思い、正直バカにしていた。
でも「茶色いの」との出会いはわたしにとって、まさに「運命的」としか表現できない出来事だった。
だって、一目見たときから、わたしは彼のことが大好きになったのだから。

そして今、実家に居る、どことなく先代を連想させる「茶色いの」は、わたしにとって(家族全員にとっても)この上なくたいせつな存在だ。


編集後記的なもの:
もう一匹の「白いの」が家に来てから、両親の抱っこ癖は止みました。
もちろん「白いの」もたいせつな存在ですよ (笑)



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bell(@bellstown21
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