#85 焼餅を妬かない妻と妾 ~「権助提灯」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

「焼き餅は、遠火で焼けよ焼く人の、胸も焦がさず、味わいも良し」という言い回しがある。妾を作ってもまったく妬かれないのも張り合いがないが、真っ黒焦げに妬かれるのも困る。ほどほどにこんがりと妬いて欲しいという、男性の身勝手な願望を現した言葉である。だが何事にも例外はあるもので、本妻も妾もまったく焼き餅を焼かず、仲良く両立させるというケースもある。「権助提灯(ごんすけぢょうちん)」という落語はこのレアケースを題材にした滑稽噺である。

 

風の強いある晩のこと。若い娘を囲っている旦那の妻が「あなた、こんな風の強い晩はあの娘(妾)のことが心配です。うちには男手があるが向こうは女中との二人暮らしでしょう。火事にでもなると大変だから、今晩は向こうで泊まってあげて下さい」と言う。「それもそうだな、有難う。じゃあそうしよう、誰かを伴に付けてくれ」「権助を付けましょう」「いや、あいつは主人を主人とも思わない傍若無人な男で閉口している。誰か別の者を…」「権助も奉公に慣れてきましたので使ってやって下さい」「ではそうしよう」。

 

外へ出た旦那が「権助、提灯に灯を点けなさい」と言うと「そんなことをしたら火事になるだよ。蝋燭に火を点けるだよ」と権助がいつもの屁理屈を言う。

 

妾宅へ着くと、「尼っこ、起きろ!金を運んでくる旦那が来たぞ!」と権助が大声で言う。「まあ、こんな時刻に。何かありましたの?」と妾が旦那に訊く。「うん、うちの(妻)がお前の身を心配して…」と経緯を話す。「お心遣い、ありがとうございます。いつも奥様にはよくしてもらって感謝してますのよ。でも、いつもいつも甘えるわけにはいきませんので、今夜は本宅へお戻り下さい」「そうか、ではそうしよう。権助、提灯に灯を入れなさい」。権助は笑いながら灯を点けた。

 

本宅へ戻ると、「良くできた娘ね。でもやっぱり心配だから今晩はあちらで…」と妻に言われ、旦那は再び外へ出る。「権助、提灯に灯を入れな」「消さねえで待っていた」「なんでそんな無駄なことをする!」「でも、あんただって妻を二人も持つなんて無駄なことではねえのか?」。

 

妾宅へ着いて旦那は妻の優しい心を再度伝えるが、「ありがとうございます。けど旦那様、今夜はどうかあちらで…」と辞退される。「権助、提灯に灯を入れな」「それには及ばねえ、夜が明けた」。

 

この旦那、羨ましい限りだが、“金を運んでくれさえすればどうでもいい男”ではなかったか?という嫉妬心も湧いてくる。“妾を持つのは男の甲斐性”と言われた近い昔の時代のことを思い出してもいる。

 

 

(竹田城跡・兵庫 2012年)

 


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