病める児はハモニカ吹き夜に入りぬもろこし畑の黄なる月の出   北原白秋  




この短歌とは直接関係がないのですが、私の頭の中でこの歌とリンクするある光景があります。  


あれは今から10年前、自転車で職場に通っている頃の話です。 片道45分かけて畑のど真ん中を貫く農道をひた走りながら、月明かりの夜に帰宅しようとしていた時の話です。  


ある住宅地の路地に入ったところ、背後からハーモニカの音色が聞こえ始めました。  


月夜の晩にハーモニカなんて風流だなあとはじめはそう思ったのですが、やがて背後から自分の方に向かってハーモニカの音色が近づいてきました。  


暗闇の中を目を凝らして見ると、一人の老人が自転車に乗りながら器用にハーモニカを吹きながら走ってくるではありませんか。  


少し不気味に感じたので私はその老人を避けるように自転車を速くこいでその場から離れようとしたのですが、老人も物凄い速度で追いかけてくるので、いっこうに距離が離れません。  


むしろ距離がだんだん縮んでしまうので、高架橋の陰に隠れてハーモニカ老人が通り過ぎるのを待つことにしました。  


その日はそれで何とかやり過ごしたのですが、その後も何回か同じような感じでハーモニカ老人と出くわしたことがありました。  


あの光景を思い出すたびに夢かうつつかわからなくなります。




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