「行こうか…」
ヒョンがリードをひく。
自分が人間だったことの方が夢だったのだろうか。
ずっとヒョンに囲われ、可愛がられ…ユノヒョンに恋した俺は、人間になりたくてあんな夢を?
どっちが現実だったのか分からなくなる。考えると頭痛がして…また意識をなくすんじゃないかと不安になった。
カツカツカツカツ…
この足音、知ってる…ピクンと耳が反応して、その方向を見る。
乏しい視力の先…近づいてくる足音があの男だと知らせる。
「あれ?開けるなと言ったはずなのに…開けてしまったんですか?」
笑いながら、犬の姿の俺に話しかけてくる。
「ワン!」
あきらかに俺を知ってる。
あれが夢でなかったら、お前のせいでこうなったんだ。
「グルル…」
こいつやっぱり…
「………チャンミン?」
ヒョンが俺を食い入るように見つめ固まる。
「その様子だと、もう少しで同化するみたいですね…自分が人間だったことすら自信がなくなってきたんじゃないですか?」
その通り…自分が人間だったのか、自信がない。
「早く元の姿に戻らないと、犬になってしまいますよ。」
そう言いながら、しゃがみこんで俺の視線まで降りてくる。
「…知りたいですか?」
ここはマンションの通路…風など吹かないのに、男の周りに風がふく。
不気味に押し上げられた口角。
その目は何かを見通すかのように俺を見つめる。
人間に戻してくれ。
こいつはその方法を知っているのだろうか…見つめ返すと、口角が押し下げられ すっと立ち上がる。
「他のおとぎ話と同じですよ…チャンミンさんを元に戻せるのは真実の愛…愛し合った相手のくちづけだけです」
床につけた膝をはたきながら呟く。
真実の愛?
愛し合う相手…
見上げると、信じられないって表情のヒョンと目が合う。
「お前が……チャンミン、なのか?」
「クーン…」
信じられないだろうけど、そうなんだ。
返事をすると、ヒョンが唇を噛む。
「愛し合う相手とくちづければ元に戻るんだな!」
そう問うユノヒョンの前にはもう、あの男の姿はなく…
元からそこに誰もいなかったように、閉ざされた空間にひとすじの風がふいた。
つづく
そろそろクライマックスですね^ ^。
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