９１歳、かあさんの夏

かあさん、最近機嫌が悪い。

寒い寒いと言う。

そらそうやろ。
薄いセーター1枚では。

かあさんのベッドのそばに暖かそうな厚いセーターがあったし、ちゃんちゃんこもあった。

なのに着ようとしない。
薄汚い灰色の薄いセーターばかり着てる。

いったい何なんだ。

パジャマだって、孫娘がくれた暖かそうなのがあるのに、着ようとしない。
古いゴムの伸びたやつばかり着てる。

立ち上がった時、お尻半分見えてるよ。

それじゃ寒くてあたりまえ。

夜、こたつに足つっこんで寒そうにしてるから、夫がかあさんのためにストーブを出した。

かあさんは居眠りしてたけど、そっと持って行ってやって弱で点けた。

しばらくして、そろそろ布団に入ろうと思ったのか、立ち上がった。

テレビを消して、ストーブもオフにするかあさん。

それを見ていた夫、気を利かせてストーブのコードをコンセントから抜いた。

慎重なかあさんは、何でも絶対にいちいちコードを抜くのだ。

それなのに、かあさん、怒った。

えらそうに！

余計なことばかりして！

杖で床を、ゴン、ゴン、ゴン、
と力いっばい鳴らす。

かあさん、最近は夫が何をしても怒る。

かあさんのために夫がストーブ出したことも気づいてなくて、目が覚めたらあったから、以前からあるぐらいに思ってる。

でも、夫がストーブ出したの目撃したら、それはそれで機嫌悪くなるかも。

自分で出すんだから放っといて！
と言うかも。

最近は、夫が何をしても気に入らない。

多分、自分が自分の息子の世話になってるってことが嫌で嫌でたまらないんだ。

日頃その事実から目をそむけてるから、世話になった記憶もいちいち消えていて、何もしてくれない。何も助けてくれない。
と言う。

でも、息子が何か自分のためにしてくれてるの見てしまったら、くやしくてたまらないんだろう。

特に、電源コード引き抜くなんて。

今自分がやろうとしてたのに。
自分でできるのに。

そんなことまで手を貸され、えらそうにされるなんて。

そんなくやしさがあったのかも。

でも私はたまらないわ。
かあさん、怒る度にうるさすぎるから。

かん高い声だけじゃない。

ゴン、ゴンって、杖で床を叩く音。

怒って自分の寝室に引きこもる時の、ガラガラ！ピシャッ！と激しくドアを開け閉めする音。

寝てたら、いちいち飛び起きちゃう。

最近はしょっちゅうだ。

だって、夫が何か言う度、何かする度、かあさんが怒る。

かあさんは、ほんとに激しい。

夫は、もう少しの辛抱や。
と言う。

もう少しって？
ほんとかな？

もう少しって？
いつまで？


果てしなく続く気がする。



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