2008年11月にある情報誌に寄稿した一文です。

 

このシリーズにだけは登場したくないといつも念じていたんですが、とうとう編集部の熱意に根負けしてしまいました。

それにしても、何をしゃべるのかを確かめることもなく、こんなバイオレンス系ハードボイルド映画を2本もとりあげてよいと言ってくれるとは……(笑)。

 

まず1978年に公開された「蘇える金狼」(大藪春彦原作、村川透監督作品)――。

 

日本を代表する俳優の一人松田優作演じる、一見、生真面目で何の取り柄もなさそうなサラリーマン(朝倉哲也)が、夜はカーリーヘアに転じて、権力を振りかざしながらふんぞり返っている奴らを吹き飛ばしていく物語。

 

内容的にはおよそ教育的なものとはいえないし、精緻な計算が施された映画と比べてしまうと、画面がとにかく暗いのに加えて、筋書きにも映像にもアラが目立つんですが、何とも言えないギラギラ感が凄いです。

 

あの時代の雰囲気だったのかなあ。

そういえば、余りに若すぎる岩城滉一を発見することもできます。

 

あと忘れてはならないのが、この映画の主題歌。

悲劇のヴォーカリスト前野曜子注が担当しています。

 

恥ずかしくて他人にはとても言えないんですが、主人公が死を覚悟して機上の人になる、ひどくかっこ悪くて、だからこそ伝説的なラストシーンに向かって流れゆくテーマ曲「蘇える金狼のテーマ」ケーシー・ランキン作曲、浅野裕子作詞)を、今でも時々、車のなかで聴いています。

 

 

実は、松田優作も前野曜子も、残念ながら映画が完成してからほぼ10年後に世を去ってしまいました。

前者は癌の延命治療を拒否し、後者は肝臓を悪くしたと伝えられています。

 

いつの間にか、あれから20年という歳月が経過したことになりますね。

今にして思えば、この映像は若くして早くも人生の終盤を駆け抜けつつあった二人が、演技と音楽の双方から、その存在を偶然にも交錯させた瞬間だったわけで、もう一度見直したら、また違った感慨が湧きだしてくるような気がします。

 

「レオン」(リュック・ベッソン監督作品)のほうは、公開が1994年ですから、あとから遅れて観たことのある受験生や高校生も多いんじゃないかなあ。

 

主役は日本でも比較的露出度が高いジャン・レノ

 

深海魚のような不気味な静けさをもつ殺し屋(レオン)が、ある12歳の少女(マチルダ)と出会ったことで人生の泥沼を背負うことになり、やがて、狂気が宿ったかのようなゲイリー・オールドマン扮する、腐った権力(麻薬捜査官スタンスフィールド)との闘いを宿命づけられていきます。

ついには、古びたビルの一角に大量のSWAT隊員(特殊部隊)も登場してくることに……。

 


強引に話をラストにもってきてしまいました。

そしてとうとうあるカタストロフが訪れ、ニューヨークのトラムウェイ(ロープウェイ)が映ってしばらくしたあたりから、放心する観客に、ギターの音色がポツリポツリと聴こえてきます。


このエンディングの曲がまた、ブルブルするぐらい深い。

唄う哲学者スティング「シェイプ・オブ・マイ・ハート」が使われています。

 

スティングの形容が陳腐すぎてファンの方には申し訳ないんですが、映画のために作曲したわけではないのに、こんなにピタリとくる楽曲も珍しいと思います。

 

いつかカラオケで歌ってみようかな。

そうしたら、僕にはかなり難解だった歌詞の解釈にも決着がつきそうです。

これも、恥ずかしくて今まで公言したことはないんですけれど。

受験生や高校性にとって、この映画にどんな意味があるかって問われると心底困ってしまうんですが、しばしの間、ドキドキする異次元空間に身をおくというのは、実は大切であるはずです。

 

日々、それでも次々に降りかかってくる嫌なことが少しは小さくみえてくるかもしれないし、疲れて鈍くなりがちな感覚を異化し、蘇生させてくれる何かが、明日も続いていくに違いない平凡な日常を支えてくれるのではないでしょうか。


勉強するエネルギーというのは、「がんばれ、がんばれ!!」という周囲からの掛け声だけで身体に満ち満ちてくるものじゃないですよね。

 

何でもいいんです。

 

ちょっと興味をもった映画があって、それゆえにひそやかな探究心が生じ、一つの総合芸術を創りだそうとする撮影現場や制作過程における、とてつもない難渋の日々をうかがい知る機会をもつことができたなら、単身で勝負できる受験なんて、ひょっとすると何でもないことなんじゃないかって、気持ちも切り替えられると思っています。


えっ!! どこが「波乱の講師人生」なんですかって。

つまりそれはまあ、予備校講師なんかにインタビューするよりも映画を観たほうが早いって言いたかったんだなあ、きっと。

 

注 前野曜子

ペドロ&カプリシャスというグループの初代ヴォーカリスト。

1972年に「別れの朝」(ウド・ユルゲンス作曲、なかにし礼作詞)をヒットさせて表舞台からは姿を消した。

 

注 見出し

作品のなかで用いられたフレーズ。

 

蘇える金狼のテーマ

 

Shape of My Heart

 

ギザギザギザギザギザギザ

 

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“時をかける少女”

 

 

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