「なぜ生きるの?」

 

雨のドライブ、助手席の彼女が突然問う。

 

「両親も失い、仕事も辞め、友達の話だって聞いたことないわ。

それって、極度の喪失よね。そんな中、生きるって、どういう気持ちかなって思ったわけ」

 

定期的なワイパーの動きを確かめるように、フロントガラスに眼を置いて僕は答える。

 

「みんな喪失の中で生きている。同じだよ。大切な人、若さもそう、全ては失うものだよ」

 

「私はあなたの意見を聞いてるの。あなたは喪失の中で漠然と生きる人じゃないわ。

必ず生きることについての位置づけや意味を持たせてるはず。それを聞きたいの」

 

フロントガラスに置いていた眼を、感受可能な視線として彼女の横顔にあてた。

 

「なぜ生きるのか。そうだね、世界で唯一の居場所を見つける為、かな」

 

「見つからなかったら?」

 

「そこで迷うのはもうやめたんだ。見つかるさ、見つけなきゃけいけないんだ」

 

「居場所を?」

 

「そう、居場所を」