ドラマで始まりひっそりと続く恋の話_14


──旅行に行こうぜっ!アルト

それは鶴の一声ならぬギルの一声であった。



アーサーの退院後1週間。
自宅療養にも、ギルのベッドにも慣れたとある朝の事である。

いつものように朝食のトレイを手に寝室へとやってきたギルベルトは、これもいつものようにさ~っと窓際のカーテンを開け、燦々と朝の爽やかな日差しを背に浴びて言ったのである。

旅行に行こう!…と。


何事も計画性を重んじるギルベルトにしては珍しく突然だ。

別に異論はないわけだが不思議なものだと思ってそれを口にすると、ギルベルトはこれもいつものようにベッドサイドに椅子を引っ張って来て座り、サイドテーブルに置いてあった朝食のトレイに手を伸ばしながら言う。

「あ~…俺様からするとぜんっぜん突然ではねえんだけどな。
俺様がちゃんと告白したつもりで出来てなかったのが去年の夏の別荘だし?
どうせならリカバリは高原の別荘からって思っただけなんだ。
で、退院してすぐだとまだ容態の急変とか怖えし、でもあんまグズグズしてるとこのあたり桜が咲いちまうだろ?
桜咲いたらアルトと花見してえし?
だから今!ってわけだ」

当たり前に淡々と…でもどこか楽しそうにそう語るギル。
そう説明されれば、なるほど!と思う。


まあそういう事情をおいておいても、別荘に行くのはアーサーも大賛成だ。
だって…あの夏は楽しかった。
アーサーにとって初めての旅行。
そして…あの時はこれが最後なんだろうな…と、楽しみながらもどこか悲しい気分だったわけなのだが、ちゃんと次があった、もしかしたら次の次も、それこそ恒例くらいに何回も行ける事になるのかもしれない…そう思えるのは幸せなことだ。

「うん!行きたい!」
と大きく頷けば、
「おう!実はそのつもりでもう支度しておいたから、午前中に病院行って最後の診療受けたら、そのまま向かうぞ!」
と、ギルも嬉しそうに笑った。


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