ニコロ・パガニーニ(1782-1840 イタリア)という、実在の天才ヴァイオリニストを主題とした映画です。何が凄いかというとクラシックに造詣が深くない人でも、十分に楽しめる説得力のあるその演奏。今世界で一番といっても過言ではない人気者デイビットギャレットが主演、総指揮をとった本格的な音楽映画です。
以下ネタバレ要素含むのでご注意を。
冒頭、黒バックの中でヴァイオリンの独創部分がありますが、その段階で引き込まれてしまいました。説得力のある演奏と確かな演奏技術。パガニーニの曲を知っている方であれば、あーこの曲ね。超絶難しくて、音大の課題曲にされたときなんかは泣きたくなるよね、といったところですが、とにかく音が凄く太く、演奏が力強い。5億円のストラティバリというのも納得の演奏です。
主演のデイビットギャレットという人は、総じてパガニーニのことが大好きなんだと思います。劇中にも独創、オケ、ヒロインとのデュオ等、全てパガニーニ作曲のものが使われています。その全てがものすごいクオリティで鬼気迫る演奏というか、本気で観ている人を圧倒したい。=パガニーニという人の人格そのものを表現したかったのだなと。
物語の舞台はイタリア→イギリスと、1800年代特有の世界観。馬車や造船、酒場、オペラハウス、当時の貴族の衣装等、ディテールも物凄く気を使っています。写真家視点では、当初はそういった絵を目当てに鑑賞したのですが、見終わって一番印象に残っているものはやはり、演奏そのものです。特にオペラハウスでの、ラ・カンパネラ。これは圧倒的としか言いようがありません。
さて、この映画を見た方であれば、気になる所。結局、悪魔に魂を売り渡したとまで言われるパガニーニの描き方として、ウルバーニ(マネージャー的存在)は何者??
ウルバーニは、パガニーニのロンドン公演の仕事を取ってくる、ロンドンでヒロイン役のシャーロット(ワトソン氏の娘)との出会いを演出する等、ストーリー上いなくてはならない名脇役ですが、悪魔=ウルバーニという見方でかなりすっきりと演出意図が見えてきます。
ウルバーニはそもそも、常人離れした仕事のセンスや、人を一目で見抜く眼力、されにロンドン公演を成功させるためのパガニーニのコントロール、金への執着心等、少し浮世離れした存在です。パガニーニの逸話は数あれど、悪魔、もしくはそれに近い存在をこの映画の中で描く必要があったのでしょう。ウルバーニ(ジャレッド・ハリス)の演技は見ものです。こんなジェントルマンがいたら、背筋が凍るどころではないでしょう。1800年代の時代背景として、キリスト教と悪魔の存在は簡易的ではあるが少し描かれています。(あまりこのあたりのシーンは好きではないのです。反パガニーニのデモ隊の演技は、少しチープという印象です。純粋に絵として、霧が立ち込めるロンドンを描いている点は好きでしたが。)
主演のデイビットギャレットの演技については、色々と言われているようですが、私は自然で好感がもてました。というか、俳優ではなく世界をトップで走る音楽家の演技としては、非常に良かったのではないでしょうか?晩年の水銀中毒で療養生活に入った時に、初めて自分の曲を譜面におこすシーンは泣けました。
死期を悟りながら、当時の音楽界には著作権という概念がなかったため、彼が開発した新しい奏法や、練習ですら他人に聞かれることを避けていたパガニーニが、自分の曲を後世に残すことをどう考えていたのか。想像すると涙が出てきます。その他にもパガニーニの逸話、家財道具一式が買えるほどの高額なチケット代、客席から登場するマエストロ、演奏中に失神する女性等等、映画演出としては少し過剰??に思える所もありますが、全体を通して、静かなシーンもきちんと作り込んでいるため、バランスとしては丁度良い。いわゆる日本映画に通じる、わびさびのようなものも感じられる映画です。
総じて、本格的な音楽映画を観たい!!という方には大変お勧めできる映画でした。それではこの辺で失礼します。興味のある方は、パガニーニをwikiってみてください。また、彼の曲(全て残ったわけではない)を聞いてみてください。悪魔に魂を売った男と言われた理由が納得できるかもしれません。