「現実入門」の結末にハマる…このエッセイを体験できるのは幸せかも。

「現実入門」という本を、これから紹介します。

私はこの本を読むたびに、「ぷっ」と声を出して笑ってしまいます。会社や電車などで読むには、危険極まりない本です。

それぐらい面白いから、いろんな人に勧めたいし、こうしてブログにも記事を書こうとしています。でも、この面白さを説明するとなると、勢いよく白旗を上げたくなります。

「とにかく最後まで読んでみて!あっと驚くから!」

としか、言いようがありません。

「現実入門」は体験エッセイですが、この本の結末に、まんまとハマってしまうことも、最高の体験になるのではないかと思わずにはいられません。

穂村弘さんって、どんな人?

現実入門―ほんとにみんなこんなことを? (光文社文庫)

まずは著者の穂村弘さんについて紹介しますね。

穂村弘さんは短歌をつくる人、つまり歌人です。エッセイや批評なども手がけています。

第一歌集の「シンジケート」は、作家の高橋源一郎さんに、

「俵万智が三百万部売れたのなら、この歌集は三億冊売れてもおかしくないのに」

と評されたほどの大傑作。

私も「シンジケート」を持っていて、開くたびに胸が熱くなります。

代表的な短歌も、紹介いたしますね。

体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ

終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて

ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は

引用元:「シンジケート」(穂村弘 著)

三十一文字でひとつの世界を創り出せるだけあって、エッセイも言葉のセンスが素晴らしいです。

軽いように見えて、ピンポイントを鋭く突いています。

現実入門は体験エッセイ

さて、穂村さんはおそらくずっと以前から、〈現実〉と〈自分〉とのズレに悩んでいたのではないかと思います。

自分ひとりの世界での甘い空想や望みと現実との間のギャップは、これまでにも散々味わってきたのだが、どうしても慣れるということができない。それはいつでも思いがけなくて、必ずショックを受けてしまう。

引用元:現実入門(穂村弘 著)

例えばあなたも、こんな風に思ったことはありませんか?

「〈現実〉ではみんながつつがなく、結婚して子どもを産んでいるように見えるのに、〈自分〉にはそんな体験がない」
「みんなが平気で体験しているような些細なことまで、おどおどしてしまう」

そういったことに身に覚えがあるなら、このエッセイはぜひお勧め。

「現実入門」の中で、自称・人生の経験値が低い穂村さんは、献血をはじめ、合コンや健康ランドや競馬など、あらゆる世間的なものにチャレンジしています。

(その体験をつづったエッセイが、とにかく笑えて面白いです……)

結婚も離婚もしたことがなく、独り暮らしをしたこともない。キャバクラにも海外旅行にも行ったことがない。そんな「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」のほむらさん・四十二歳が、必死の思いで数々の「現実」に立ち向かう。献血、モデルルーム見学、占い、合コン、はとバスツアー…。経験値をあげたほむらさんが最後に挑むのは!?「虚虚実実」痛快エッセイ。

引用元:現実入門 「BOOK」データベース

〈現実〉とのギャップに悩んでいるのは、〈自分〉ひとりじゃない。

私は穂村さんの文を読んでいると、

「なーんだ。現実とのギャップに悩んでいるのは、自分ひとりじゃないのね」

と、ほっとします。

たとえば私は、未だに自分の甥っ子や姪っ子に、「お年玉」をどうやって上げたらいいかい分かりません。にこやかに渡したいのに、なぜか顔が引きつってしまいます。

でも穂村さんは、「お年玉」を上げること自体、体験したことがないそうです。しかも大相撲をマス席で観戦することになったとき、「心づけ」を担当者に渡すことにドキドキしています。

それを見て、「あ!私といっしょだ……」と思いました。

お金を包んで渡す時って、「お年玉」にしても「心づけ」にしても、緊張しますよね。

そんな風に、現実でスマートに立ち回れない人にとって、この本は救いになるんじゃないかと思います。(救いと言ったら、大げさかな?)

そして、やっぱり、ラストが素晴らしいです!

エッセイの所々に伏線が張られていて、最後にびっくりするような仕掛けがされています。ネタバレしないように、うまく説明することが難しいくらい、それは見事な仕掛けです。

これは本当に、体験してほしいですね。

※明日(5/21)は、穂村弘さんの誕生日。
お祝いの気持ちで、この記事を書きました。
5/23には、17年ぶりの最新歌集「水中翼船炎上中」も刊行されるそう。
ファンとしては楽しみです。

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