「裏表先代萩」
菊五郎/時蔵/彌十郎/萬次郎/團蔵/孝太郎/松緑/彦三郎/東蔵/錦之助/亀三郎
初見ですが、2007年に勘三郎がやったようです。その前は1995年に菊五郎が演じていて、とにかく上演頻度が低いんだわ。菊五郎としても23年ぶり上演となる訳です。
「伽羅先代萩」を表として、その裏=市井で並行して起こった事件をくっつけた物語です。「先代萩」で鶴千代殺し用の毒薬を調合した町医者の大場道益(名前だけ出てくる)。「裏」の話ではその道益が登場し、毒薬調合の褒美200両を前払い(?)でもらっています。で、その金欲しさに小悪党の小助が道益を殺すというのが1幕。2幕は「伽羅先代萩」の御殿と床下、3幕は、小助が裁かれる場(「先代萩」の評定のパロディー)と、そのあと「先代萩」の刃傷が続き、2人の悪党が成敗されて幕。
世話物の小助と時代物の弾正、悪党2役を菊五郎が魅せましたが、やっぱり小悪党の小助が断然良かった。道益の下男なんだけど(たぶん)、200両の話を小耳に挟んで、「まてよ……」と悪事を企むところからグイグイ引っ張ります。粋な江戸っ子風下男から、悪の顔を見せていく変貌がすごく自然。ドスを効かせた低くてどろっとした声に凄みがあり、こそっとした動きと開き直りとの切り替わりが良い!
道益は團蔵で、この2人の立ち回りが何かほのぼの その團蔵は孝太郎扮するお竹に惚れ込んでいて、しつこく言い寄ったりするのね。團蔵さんも脂が抜けて その乾いた好色感が何となく良いなーと 孝太郎の町娘役はとっても似合うと思います。可愛さと気丈さがほどよくブレンドされていて、キビキビした動きもよかった。
御殿。時蔵の政岡、初役とは意外でした。キリッとした佇まいから品格が溢れて、いかにも武家の乳人という凛とした姿。息子を犠牲にしてでも鶴千代を守り抜くという芯を感じます。千松がなぶり殺しにされてからの、大げさな表現を抑えた演技(まだまだ慎重ということかな)も魅せる。鶴千代をしっかと庇い前を見据えて微動だにしない立ち姿とか、栄御前を見送った後の、フラリと倒れそうになりグッと持ち直すところとか。決して大げさじゃないけど気持ちの動きが手に取るようにわかり、政岡に寄り添えました
八汐は彌十郎。なんといっても大柄なので、それだけで威圧感があり、般若のような顔つきのおかげで 怖さヴァージョンアップ(これを6月博多座で仁左さまがやるんですよねー 見たいけど、博多まではさすがに行けない )。
床下は、彦三郎の男之助がとても素敵だった〜 スッとした姿なので少し線が細く感じたけど、却って爽やか。声が低いのに澄み切っていて響き渡る。隈も似合っていて凛々しく、所作も綺麗で、ネズミとの立ち回りも決まっていました。
菊五郎の弾正はさすがの貫禄。花道の引っ込みはたっぷり(……すぎるほどゆっくり)。上方から観たので視界からすぐに消えたけど、定式幕にその影がゆらゆらと映り、その効果を意図した演出ではないと思うけど、不気味さが残りました。
終幕は刃傷で、弾正と、東蔵演じる外記左衛門と立ち回り。菊五郎は、勢いやキレがないのは仕方ないとはいえ、さすがに年齢を感じましたね。片足立ちの鷺の見得とかも、そういえばなかったし。それでも、所作が体に馴染んでいるから動きは綺麗で説得力はありました。最後にチョロッと出て締める細川勝元は錦之助。いや〜、爽やか
「伽羅先代萩」は作品として嫌いではないけど、正直言うと「御殿」の前半、鶴千代と千松の一連のやりとり……あの子役のセリフ回しが苦手なのです (しかも、長い 今回は飯炊きはなかったですが)。普通だったらあそこは、子役ちゃんが可愛かったー!となるところでしょうが、私はいつも引いた気持ちで観ています
あの一本調子のセリフ回しは、どんな子役でも上手い下手なく、失敗せずにきちんとセリフを言えるように考えられた方法なのだそうで、それはそれで素晴らしい発想だとは思うんですけどね、どうしてもダメ 現・猿翁が歌舞伎の世界に入ったとき、あの手のセリフ回しの子役は演りたくない(正確には「かかさまやぁ〜っていうのは演りません」だったかな)とお願いしたというインタビュー記事を読んだことがあるけど、小さい頃から反骨精神旺盛だったんですね
でも! 今回は彦三郎のお子(亀三郎くん=倅マンくん)が鶴千代で出ているので注目しましたヨ。も〜、すごく可愛かったし セリフもきちんと淀みなく言えて、立派だったぁ〜 まだ5歳なのに目鼻立ちがくっきりしていて、大きくなったらパパに負けない素敵な役者さんになるんでしょうね 声もきっと素晴らしいことでしょう