掌編な小説

愛と死を題材としたものだけを載せました。感想をいただければ幸いです。長編は苦手。少しずつですが、続きを書いていきます。

シュレーディンガー

2018年06月22日 | 掌編小説

 第4世代セフェムを10g(1日1gを10日間)を静注(静脈注射)し、やっと気管支が安定した。

1gのバイアルの粉を100㎖のブドウ糖溶解液に溶解し、ゆっくりと30分以上かけて点滴する。

 3か月も続いた咳に、当初は喘息かと思ったが、咳が酷いだけでは喘息と決めつけられない。喘鳴を

ともなう咳ではなかったし、結核菌の同定検査もしたが、その抗原も見つからず、グラム陰性の球菌が

関与している感染症で急性の気管支炎と診断された。

 グラム陰性球菌とは何なのか俺にはわからない。一応物理化学は勉強したが、医学・薬学に関しては

素人の域を超えない。部屋の炬燵で丸くなって考えていても他人の思っていることは分からない。

 喘息というのは免疫化学で説明するのだと訊いている。なぜ免疫なのか、素人の域を超えないどころ

かそんなことすら知らない。医師から一般的には喘息様気管支炎は喘息と言うのだとか‥。あまり信用

はしていなかった。いったい気管支炎なのか喘息なのかどっちなんだ。白衣の男は名の知れている男だ。

シュレーディンガー。だが、何の説明も受けなかった。

 とにかく咳があまり出なくなったので、安心した。

 だが、安心したのは束の間だった。咳は出なくなったが頭痛がひどくなった。前から軽い頭痛を感じて

いたのだが単なる気のせいだと思っていた。

 俺の周りを半透明の厚い布のようなもので覆いかぶされ、大きな箱状の中に閉じ込められてしまった。

ベッドの外はどうなっているのか、ぼんやりとしか見えない。白衣を着た男が外をなんとなくゆらゆら移

動していることしか感じ取れない。

 突然霧状のものが私の周りに降り注いだ。毒ガスか?マスタードガス?ひょっとしてアウシュビッツの

二の舞か?インフォームド・コンセントも何もない。

 なんか、ボーッとしてきたぞ。やっぱり毒ガスだったんだ。

「このやろー!殺す気かー!」

 俺は半分死にかけてるんだ。ぐったりとなってしまった。そういう俺はまだ生きてるのかな。死んで

いるのかな。もう虫の息となってしまった。死にかけていることは事実だが、かと言ってまだ死んだわ

けではではない。どっちだ。

 そもそも、生きていると死んでいるは、どっちかなのか?ひょっとして共存できるとか…。う~ん、

考えていたらふらふらする。

 外でなんか言っている声がする。「中の猫は50%の確率で生きている」なんて言っている。

 おい外のシュレーディンガーさんよー、動物虐待だぞー。

       (終)

 

 

 



3 コメント

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Unknown (犬)
2018-06-22 15:11:37
俺= 猫か。発想がいいと思いました。
量子力学を学んでいないと分からないかなと思いました。

Unknown (schrodinger(cat))
2018-06-26 23:37:04
シュレーディンガーの猫の話。最後で分かった。
Unknown (きじねこ)
2018-11-20 13:51:09
こんにちは、きじねこです。
猫が物理化学を勉強したなんて、優秀な猫で、かわいい感じがした。

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