トーキング・マイノリティ

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SONGS/スティング特集

2017-01-15 21:40:09 | 音楽、TV、観劇

 今年1月12日放送のNHK『SONGS』に、スティングが初登場した。番組タイトルは“65歳のロック魂”と銘打ち、NHKの公式サイトではこう紹介している。

イギリスが生んだ世界的ロックスター、スティングがSONGSに初登場。今回、NHKの101スタジオでスペシャルライブを披露した。大ヒット曲3曲『孤独のメッセージ』『見つめていたい』『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』、そして11月発表されたニューアルバムから『アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー』を演奏。圧巻のライブパフォーマンスをお届けする。
 さらにSONGS独占インタビューを敢行。スティングが、今感じている様々な想いを大いに語った。デヴィッド・ボウイプリンスの死、環境変動や難民などの社会問題、貧しかった少年時代、名曲誕生秘話、日本への想い、そしてロック回帰の理由…。
 落ち着いた語り口の中に時折ウイットを交える話術。まさに英国紳士と呼ぶに相応しい魅力満載の彼の今に迫る。聞き手は、NHK杉浦友紀アナウンサー

 この番組は音楽サイトにも画像入りで取り上げられており、文面はNHKサイトとほぼ同じ。だが実際の番組を見たら、NHKサイトでの紹介は「看板に偽りあり」だった。
 そしてサイトにある「貧しかった少年時代」には違和感を感じる。牛乳屋が家業なので、牛乳配達を手伝った少年時代や父の職業を継ぎたくなかった等と語っていたが、それも絶対的貧困とは言えない。地方都市の裕福とは言えない家庭に生まれ育ったことは判るが、ならば英国では牛乳屋は貧困層と見られているのか、と言いたくなる。
 
 放送時間が25分足らず、その間に4曲のライブパフォーマンスがあるため、インタビュー時間が極めて短時間になるのは仕方ない。しかし、難民問題への言及ばかりか、“日本への想い”に至っては皆無なのだ。正に看板に偽りありで、NHKは視聴率を上げるため、公式サイトと番組内容が異なる羊頭狗肉式手法は毎度らしい。

 そのくせ杉浦アナは、「音楽には社会を変える力があると思う?」等の愚問をしている。彼女に限らず、日本の報道人は何故こうもロックは社会を変革させるという結論に持ってきたがるのか?
 65歳のスティングは、この手の下らない質問には慣れているようで、「一夜では無理。人の考えは簡単に変わらない」と答える。続けて自分のコンサートに来た人の中に政治家や国連職員になる人が出て来て、彼らが行動する時、初めて音楽は社会を変えたと言えるだろう…と話す。音楽が社会を変えると思い込むのは、ミュージシャンよりもメディア関係者の方かもしれない。

 スティングが精力的に南米の熱帯雨林保護活動を行なっていたことを、少なからぬロックファンは知っている。そのためブラジル政府と衝突していたが、実は日本も糾弾されていたのだ。80年代後半だったと思うが、『ニュースステーション』にゲスト出演した際、仏頂面で熱帯雨林の危機を訴えていたことを憶えている。この問題に関心の薄そうな久米宏を後で批判していたという。
 日本の役所にも行き支援金を要請するも、支払金の少なさに腹を立て、帰国後に日本はアマゾン森林破壊に手を貸している、と語っていたことが日本の音楽雑誌(雑誌名は失念)に載っていた。

 さらにwikiによれば、イルカ漁を題材とした反日映画『ザ・コーヴ』出演者リック・オバリーと親交があり、オバリーの活動を全面的にサポートしている、とある。イルカ漁に対しては、「話し合いが必要」「引き続きこの問題が取り上げられていくことを見守っていきたい」と述べたとある。
 スティングのこれら2件の“活動”は、今回の特集ではもちろん触れず、この類のロック歌手を「社会問題に関心の高いミュージシャン」、と持ち上げるのが日本のメディア。これだけで彼の日本への想いが知れよう。日本の言い分には全く耳を貸さず、平然と支援を要求する所に英国人の鉄面皮がよく表れている。

 それでも番組を見たのは、スティングが登場したからだ。初めて好きになったバンドこそ、彼がボーカルだったポリスだったし、学生時代に夢中になった曲は、今でも懐かしい思い出なのだ。NHKのスタジオに集っていた人々は、やはり中年層が多かった。
 その“社会活動”で、すっかりスティングが嫌いになってしまったし、彼のミュージカル「ザ・ラスト・シップ」が不評で3カ月で閉幕したこと、10年以上ものスランプで歌が書けなかったことを知り、気分がよかった。

◆関連記事:「ポリス インサイド・アウト
 「日本を食い物にするロックスターたち

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