トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

兄はイスラム原理主義者になった その三

2014-09-25 22:06:05 | 音楽、TV、観劇

その一その二の続き
 インドと同じくイスラム世界でも右手は清浄と決められ、左手は不浄とされている。その教えに従い同胞には右手を出し、不信仰者(異教徒)に対しては左手で握手しようとするリチャード。これが弟と握手しなかった理由だし、ムスリムとしては正しい習慣でも弟は傷付くだろう。
 リチャードはメッカ巡礼を決意し、ロブは空港に見送りに来る。空港でついにロブは兄に対する怒りを爆発させた。不信仰者は全て汚れて劣っているのか、とまで問い詰め、結局は喧嘩分かれのかたちになった。兄は最低のムスリムでも不信仰者に勝ると言っていたし、兄弟でもイスラム主義者とは完全に隔たってしまったのだ。

 映像で見た限り、リチャードは常に仏頂面で笑顔やユーモアが殆どない。一方、ベンや他の英国人改宗者はロブにも笑顔を見せていたし、右手で握手している。赤の他人による社交辞令もあろうが、気さくなベンは既に割礼を受けている。仲間の英国人ムスリムはイギリスをイスラム国家にするプランをこのように語っていた。第一に布教活動、次に平和的に支配権を握り、最終的には戦争という。つまり、ムスリムによる国乗っ取りということ。首相官邸にイスラムの旗を立てることを目指すとも言っていた。

 ドキュメンタリーでは改宗前のリチャードの人生は語られておらず、何故27歳でロンドンに上京したのかも不明。首都に来ても仕事はBBCの警備員だったので、望みどおりの職に就けず、仕事や職場への不満があったことも考えられる。改宗前の事情が分からない故の憶測になるが、元から人間関係や社会への適応性に問題があったのだろうか。
 リチャードの仲間の1人ザカリアは、かつてはチャールズという名だった。彼はイスラムに改宗した理由はブッシュ(子)だと言っていた。我々の側につくのか、と迫ったあんな嘘つきには従えず、ムスリムになったと語っていたが、それは口実だろう。原因はブッシュではなく、何か強い不平不満があったと私は見ている。

 欧米人改宗者は男だけはなく、女もいる。移民ムスリムの恋人または夫に影響された者が多いと思われるが、麻薬中毒などの悩みを抱えた女がイスラムに救いを求めるケースも少なくないようだ。改宗した欧米人の女は目を除いて全身を覆う黒いベール姿でデモに参加、欧州諸国でのブルカ禁止令に反対の声をあげていた。

 リチャードが所属するイスラム主義団体指導者はチャウダリー。インド又はパキスタン系らしい名前だし、検索してみたら「パキスタン系移民のアンジェム・チャウダリー氏(43)」を紹介するサイトがヒットした。このサイトやドキュメンタリーからも相当な煽動家だし、人を惹きつけるカリスマ性もあるようだ。
 このドキュメンタリーには続編があり、タイトルは「そして、兄はテロリストになった」。その番組サイトもある。2012年7月、リチャードはテロ行為準備容疑で逮捕され、翌年4月、刑期6年の判決を受けた。前回ロブに親しく接した兄の仲間たちも、パキスタンで訓練を受けていたという。

 何がイギリス人の若者を聖戦士としての活動へと駆り立てたのか?私には到底理解できないし、何が日本人の若者をオウム真理教に走らせたのか?の問いに簡単には結論は出せないのと同じく。尤も日本にも中田考のようなイスラム主義者はおり、2011-09-23付で私は中田を厳しく非難した記事を書いている。
 リチャードら英国人ムスリムと中田とは奇妙な一致がある。不信仰者や偶像崇拝者の国の文化や社会のあり方を全否定しつつ、異教徒の国で暮し続けているのだ。特に中田は共存のための住み分けを提言しながら、未だに日本に居座っている。もし、それほど聖法が支配するイスラム社会が素晴らしいならば、イスラム諸国にはこぞって移民が押し寄せるはずだが、現実は正反対なのだ。リチャードや中田は所詮イスラム圏に移住しても全く適応できず、彼ら自身もそれを熟知しているゆえ、“不信仰者”に寄生する生き方をとる連中に過ぎない。

 今のところ、英国人改宗者はイスラム系スウェーデン移民のように自国の国旗を焼くことはしていないようだが、テロのパシリといった使い方をされるらしい。旧植民地出身者の創設したカルト集団に若者が狙われる問題は、日本も同じなのだ。このような風潮は二つのエピソードを思い出させる。ヒトラーが台頭した頃のドイツで、ある女性が言った言葉。「考えるのには疲れた。今はただ信じたい
 もうひとつは十年以上も昔と思うが、イスラムに改宗したインドの女性作家。恐縮だが名前は忘れた。美貌と才能に恵まれ、恋愛体験も豊富だったはずの彼女が突然イスラムに改宗、世間を驚かしたことがあった。その理由を聞かれ、件の女性はこう言っている。「自由に疲れたから」。

 先進諸国の間でカルトが蔓延る原因の一つは、「信仰の自由」もあろう。多様な価値観や信仰の自由は混乱にも繋がり、教条的、排他的なイデオロギーは若者を引き付ける魔力がある。常に自分の頭で考えさせられ、選択を迫られる自由社会というものは精神的に疲れやすい面もあるのだ。民主主義がナチスを産んだように「信仰の自由」が、己の信仰以外認めない宗教を増長させている。

◆関連記事:「相互理解
 「悪魔の詩
 「自爆テロリストの正体
 「悪霊の存在を信じる人々

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (匿名申し訳無い)
2015-02-09 08:31:51
アルコホリックアノニマスか断酒会をお勧めします
匿名申し訳無い へ (mugi)
2015-02-09 22:10:58
「アルコホリックアノニマス」とは初耳だが、検索したらwikiにもあった。Alcoholics Anonymous、「無名のアルコール依存症者たち」の意味らしいな。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%8B%E3%83%9E%E3%82%B9

 月曜の朝からこんなカキコとは、キミ自身が「アルコホリックアノニマス」や断酒会を必要としているようだ。キミの願望脳内転換と違い私はアル中ではないし、飲酒をやめたいとは全く思わない。AAとは違い、「飲んで楽しく生きていく」のがモットー。

 大体アル中になるのは意志の弱い奴。酒がなくとも薬やネットに溺れたりする。そしてネットでイスラムを「擁護」する者にはアル中暇人もおり、その類は拙ブログにも現れた。「擁護」でもイスラムを愛するゆえではなく、反日のツールに利用しているだけ。
 意外に知られていないが、イスラム圏でもアル中が多い。イスラムで禁酒を説いた真の目的は、ワイン販売を独占するユダヤ人への経済ボイコットらしい。尤も歴代スルタンの多くはワインを楽しみ、臣下も大いに飲みまくっていた。