少々遅くなって申し訳ないのですが…2015年1-3月期の我が国のGDPについて解説したいと思います。

 もう、その必要はないですか? でも、一応念のため。

 2015年1-3月期の実質GDPの成長率は前期比(年率換算ベース)でどうなったか?

 答えは、2.4%の増加となったのです。

 まあ、それだけを見るならば悪くない数値。但し、具体的なレベルとしては、527.3兆円ということで、満足できるレベルとは思えません。

 グラフをご覧ください。

実質GDPの推移
(内閣府のデータにより作成)

 お分かりになったでしょう?

 2014年1-3月期は、消費税増税直前の駆け込み需要で実質GDPの水準が一気に上がった訳ですが、それを別にして、それより以前の水準からすればまだ低いのです。

 でも、まあ一応グラフの向きを見れば、それはそれで歓迎すべきかもしれませんね。

 では、何が成長率を押し上げているのか?

 全体の伸びは2.4%ですが…個人消費は1.4%、設備投資も1.4%と、それほど好調というほどでもないなか、住宅投資が7.5%と高い伸びを示しているのです。

 では、この住宅投資の高い伸びが全体を押し上げた主な要因かと言えば…住宅投資は、前期の12.9兆円から13.1兆円へと0.2兆円伸びたに過ぎず、これが主要因とは言えないのです。

 では、何が主要因なのか?

 実は、またしても民間在庫が原因になっているというのです。在庫品の増加が、前期のマイナス3.2兆円からマイナス0.1兆円へと減少幅が低下しているために、これで実質GDPを3.1兆円ほど押し上げているのです。

 在庫品の増加が、マイナス0.1兆円になったということが何を意味するかお分かりでしょうか?

 これがプラスの値だったら、その額だけ在庫が増えたことを意味します。従って、マイナスであるということは、それだけ在庫が減ったということなのです。

 ということで、1-3月期も在庫は前期と同じように減っている訳ですが、その減り方のペースが落ちたということなのです。

 少々わかりにくいですが、それが今回実質GDPを押し上げた主な要因ということです。

 では、各紙は、そのことをどのように伝えているのでしょうか?

<日経>
 住宅・設備投資、底入れ GDP年率2.4%増

 1〜3月に実質GDPへの寄与度が最も大きかったのは在庫。卸売業や小売業が抱える流通在庫が増えたことが大きい。消費意欲の回復を反映し在庫が販売増につながるかも、今後の成長率の重要なカギとなる。

 日経は、在庫が増えたことが大きいと言っていますが、それは正確ではありません。在庫は、減り方はガウンと落ちているものの、やはり減少しているのです。因みに、在庫を、製品在庫、仕掛品在庫、原材料在庫、そして流通在庫と細分化してみても、流通在庫はやはり減少しているのです。

<毎日>

 GDP:年率2.4%増…設備投資プラス 1〜3月期

 1〜3月期のGDPを押し上げた陰の主役は、企業が倉庫に積み上げた「在庫投資」が増えたことで、成長率の押し上げに0.5%寄与した。国内で生み出された付加価値の総額を示すGDP統計では、在庫が前期より大幅に増えればGDPにプラス、大幅に減ればマイナス要因になるためだ。

 毎日も、在庫が増えたと書いていますが、正確ではありません。「在庫が前期より大幅に増えればGDPにプラス、大幅に減ればマイナス要因」というのはそのとおりですが、在庫が減ってもプラス要因になる場合があるのです。

<読売>

 GDP、年率換算でプラス2・4%…1〜3月期

 企業の在庫が増えたこともGDPを押し上げる要因となった。

 読売も、在庫が増えたと書いていますね。しかも、社説でも、次のように言っているのです。「商品などの在庫増加が、GDPを押し上げている面もある。積み上がった在庫を円滑に解消しないと、生産の抑制につながる恐れがあろう。」

<朝日>

 GDP1─3月期年率+2.4%、設備投資や輸出増2四半期プラス成長

 輸出の伸びや設備投資がプラスに転じて景気改善が確認できたが、民間在庫投資が実力以上に成長率を押し上げた面がある。民間在庫投資は、前期比寄与度プラス0.5%となり、成長率寄与度が最も大きく、全体を押し上げた。ただ、今後は生産の下押し圧力となる可能性もある。

 朝日は、余り細かなことを言っても読者には分からないと思い、説明を端折ったということなのでしょうか。ただ、在庫が増加したとは書いていないところは評価できます。

 そうしたなか、一社だけ正確に報じている新聞がありました。

<日刊工業>

 1―3月期のGDP、年2.4%成長−企業の在庫調整一巡

 内閣府が20日発表した1―3月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0・6%増、年率換算で同2・4%増と2四半期連続で増加した。1%台後半とみていたシンクタンク予測を上回った。個人消費が予測を上回る同0・4%増だったほか、企業の在庫調整が一巡した影響が大きい。

 1―3月期の実質GDP成長率が民間予測を上回った理由の一つは、企業の在庫調整のペースが予測より緩やかだったこと。民間在庫品増加の成長率への寄与度は0・5%と、3四半期ぶりに増加に転じた。

 日刊工業は、在庫調整のペースが緩やかだったと言っていますが、それは在庫の減少のペースが落ちたことを意味するので、正確な記述と言えるでしょう。


 如何でしょうか?

 なんといい加減な記事の多いこと。

 まあ、そこまで細かいことを求めている読者など殆どいないと言われるとそれまでなのですが…

 でも、この民間在庫の動向が、GDPの予測を難しくしていると以前から盛んに言われ…そして、今回から内閣府は、その民間在庫の種類ごとの増加状況を報じているのです。

 その意味でも、もう少し正確な報道をして欲しいと思います。




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