非国民通信

ノーモア・コイズミ

フードナショナリズム

2014-04-22 23:27:33 | 社会

「米と牛乳合わない」? 新潟・三条市が給食牛乳廃止検討 北海道の酪農地帯・釧路、根室管内に波紋、異論(北海道新聞)

 ご飯に牛乳は合わない―。学校給食を完全米飯化した新潟県三条市が正しい食育を理由に牛乳を試験的に廃止することを決め、全国的な話題を呼んでいる。酪農地帯の釧路、根室管内からは「牛乳を飲むことは地域を知る食育の一つ」と異論も上がっている。

 食の欧米化で生活習慣病が増える中、三条市は「日本人らしい食事で、健康な生活と和食文化の継承を」(食育推進室)と2008年に給食をすべて米飯に切り替えた。牛乳廃止は、父母や学校関係者から「米飯に牛乳は合わないのでは」との声が上がったのがきっかけで、12月から来年3月まで試験的に実施する。今春の消費税増税に伴う給食費の値上げを抑える狙いもある。

 

 この辺も変なカルト右翼が絡んでいるのではないかという気がしないでもありませんが、「食」の分野は少し事情が違うところもあるでしょうか。曰く「ご飯に牛乳は合わない」とのこと。ミカンジュースを使った炊き込みご飯があるくらいですから一概に「合わない」とは思えないのですけれど、三条市の偉い人が個人的な好みで学校給食に介入している印象も拭えません。故アンディ・フグはご飯にヨーグルトをかけて食べていたそうで、ともすると日本では奇異に見えるこの食べ方、実は彼の故郷であるスイスでは特別に珍しいわけではないのだとか。逆に日本では当たり前な、サンドイッチに甘いクリームを挟むとか豆を甘く煮るとか、その辺の方がヨソの国の人からは変に見えていることも多いでしょうし。

 フードファディズムもさることながら「フードナショナリズム」とでも呼ぶべきものもあるように思います。普段は排外主義に反対のフリをしている人でも、「食」の領域に関しては完全な排外主義者としか言いようのない主張を展開している人も多いわけです。他国の文化の影響や外国の習俗を自国のそれに比して劣ったものとして扱うのであれば、それは偏狭なナショナリズムに他なりませんが、こうした態度に批判的な人でも食の関わる分野では態度を翻し、外国文化の影響を無条件の悪として捉え、日本食に排他的な優越性を見ている人が少なくありません。

 「外国人」と言わずに「外人」という言葉を好んで使うようであれば、その人の立ち位置は自ずから知れるでしょうか。一方で「輸入米」ではなく「外米」との言葉を好んで使うケースはどうでしょう。私はこれも同様に排外主義の表れと見ますけれど、まぁ自らの偏狭さに無自覚な人は多いように思います。あるいは日本が強行する南極海その他での遠征捕鯨活動に関しても然りで、この辺は右翼層に限らず「左」と世間から扱われている類の政党やメディアも、おしなべて日本政府側の一方的な主張を繰り返すばかりです。ある意味、右と左が手を携える日本で最も理性の働かない対象が「食」の世界という印象が拭えませんね。

 軍事的衝突の可能性については話し合いによる解決や国際協調の必要性を訴えるような人でも、やはり「食」の領域に関しては先軍主義の信奉者と似たような考え方をするケースが多い、日本が「脅かされている」と強く信じ、国際的な友好関係の破談を前提として防壁を築くことを訴えるような論調が大いに目立つところでもあります。実際のところ、香川のうどんとオーストラリアの小麦のように「食」の世界であろうとも国際的な連携は不可避であり、相互に協力してこそ発展はあり得るとしか言いようがないのですけれど、まぁ現実に目を向けるよりも被害者意識に浸ることを好む人が多いわけです。

 

 栄養面でいえば、牛乳は日本人が不足しがちなカルシウムを多く含んでいる。文部科学省の基準で、カルシウムは給食1食あたり300~450グラムの摂取が望ましいとされている。牛乳は1パック200ミリリットルに200ミリグラム強を含んでおり、「ほかの食品だけで、摂取基準に達するのは難しい」(文科省学校健康教育課)。三条市も「基準の8割程度にとどまるかもしれない。家庭で飲むように啓発していく」という。

 

 「日本人らしい食事で、健康な生活と和食文化の継承を」というのが三条市の主張で、これを伝える北海道新聞でも「食の欧米化で生活習慣病が増える」と無批判に断言しています。「和食」とやらを押しつけることで、果たして本当に日本在住者の健康は促進されるのでしょうか。かつては「江戸わずらい」なんて言葉もありました。白米に偏った江戸の庶民の食事は栄養バランスが悪く、脚気になる人が多発したことが伝えられています。現代の「和食」にしても上で指摘されるようなカルシウムの不足傾向はありますし、その他にも全般的に日本食は塩分過多であることが広く知られているところで、決して「和食」は手放しで褒められるようなものではないでしょう。

 あたかも欧米の食文化が不健康なものであるかのように(そして日本食が欧米の食文化とは「違って」健康的であると)語られがちですけれど、それは偏狭な姿勢に他なりません。他国の食文化を尊重できずに自国の食文化を押しつけようという動きは、排他的ナショナリズム以外の何物でもないと言えます。だいたい「日本人らしい食事」とは何なのでしょう。給食に置ける牛乳は、ほぼ全ての政党と新聞が日本の伝統であると言い張る鯨食なんかよりもずっと長い間、続いてきたもののはずです。

 そもそも白米が日本全国で主食化したのは近代に入ってからのこと、日本で独自発展を遂げて世界に輸出されるレベルにまで昇華されたラーメンなんかと、実は同じくらいの歴史しかないと言っても過言ではないでしょう。日本で米の自給率が100%に達したのは1960年代後半ですし、三条市の位置する新潟の米などはまずくて有名で、鳥も食べない「鳥またぎ米」などと呼ばれていた時代も長かったものです。和食=米食の時代なんて過渡期の産物であって食文化は常に変わり続けているわけで、その時計の針を無理矢理、特定時期を「文化」と言い張って巻き戻そうというのも馬鹿げた話と言うほかありません。

 

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Unknown (毛)
2014-04-23 01:33:48
私も昨今のこの動きには非常に気持ち悪さを感じています。しかし「日本人らしい食事で、健康な生活」と言いながらそれを推進することでカルシウム不足を招くとはギャグにしか思えませんね。

また、この動きには和食料理人などの団体による「食育」を建前とした宣伝活動に皆が安易に乗っかっているという背景もあるようです。(参考:http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20131229000010) 和食に携わる人達が自分達の業界の発展のために動くのは普通のことだと思いますが、「食育」なるマジックワードを掲げられるた途端、普段は「利益誘導だ利権だ既得権益だ」とうるさい方々もすっかり黙るその姿には呆れてしまいます。
Unknown (ピィ)
2014-04-23 08:30:47
普段はエスノセントリズム丸出しでいながら捕鯨の時の様に都合が悪くなると急に相対主義を掲げるという人々は本当に多いですしね
残念な事にそういう連中の殆どが自分達の矛盾に気付いてすらいないという現状です
バラエティー番組などで海外、とりわけ途上国の文化をかなり異質、時には劣ったものとさえ見ているのに、欧米に対しては「欧米の連中はすぐにアジアに対してケチをつけたり見下したりする」などと平気で発言するのですから都合の良い話です

そもそも特に日本の場合様々な国や地域の食文化などを取り入れてきたので厳密な意味での「完璧な日本オリジナルの」ものというのは殆ど存在しないのではないかと思われますが、まあ自分達が最も優れた民族であると思わずにはいられない人というのも多い様で
韓国などの起源説を馬鹿にする一方で日本起源説や日本(人)優越説に浸るという事が半ば何の疑問や違和感も抱かずに行われているわけですからね

また管理人氏のおっしゃるとおり我が国では「左」される人でさえ無批判な日本賛美に海外(特に欧米に対しての)批判というのが良く見受けられます
リベラルを自称する人々が非リベラル、酷い場合だとレイシストや“精神主義者”と同じ穴の狢である事が多いですから
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-04-23 22:15:05
個人的には食事と一緒に飲む牛乳好きでしたけどねえ。塩辛いおかずの合間に飲む牛乳の程よい甘さが…。

(年取って好みが変わってきたのか最近はあまりやってないですが)
Unknown (非国民通信管理人)
2014-04-23 23:27:46
>毛さん

 まぁ都合良くダブルスタンダードを使いこなす人にはいつでも困らされますね。こういう「和食」のゴリ押しだって欲得ずくで動いている人は出てくるものですが、ところどころに世間が目をつぶる対象があると言いますか、不思議と批判から免れている聖域のごときものがあるようです。

>ピィさん

 日本の食文化も地域の差があれば時代による変化もあるはずですが、「和食」を神聖視すると同時に「これだ」というものを押しつけようとする気運も強いですよね。そういうのは批判されてしかるべきですが、食に関わる分野では「左」と目される人も怪しいのが多いこと……

>ノエルザブレイヴさん

 私も牛乳は好きなのですが、一方で嫌いな人もいて、その辺はまぁ好みの問題なのですけれど、個人的な好みをあれこれと屁理屈をこねて普遍的なものに見せかけようとする人もいるわけですね。そうした動きの一つが今回とも言えるように思います。
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-04-24 23:09:37
そういえば、私が高校の時に諏訪中央病院の院長(今は院長をやめているみたいですが)の講演を聞いたことがあるのですが、その院長が諏訪に来たばかりの頃「塩分の取りすぎは体に良くない」的な健康増進のための指導を住民に行い、その後に「いやー先生ありがとうございました」と出されたお茶請けが山盛りの漬物だった、というような内容のことを言っていた記憶があります。そして漬物も立派な「和食」であろうことを考えると…。

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