浮世絵モダーン 深水の美人!巴水の風景!そして ・・・ | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、町田市国際版画美術館で開催されているのは、
“浮世絵モダーン 深水の美人!巴水の風景!そして ・・・” という展覧会。




こちらは、「新版画」 の名品約300点 (←前後期あわせて) を、
『女性』『風景』『役者』『花鳥』『自由なる創造』 の全5章構成で紹介する展覧会です。




“新版画って何?” という方のために、簡単に説明いたしますと。
江戸時代、絵師や彫師、摺師がその技を競演させた浮世絵が隆盛を極めていました。
しかし、明治時代になると、メディアとしての側面が強い浮世絵は、
写真や新聞など他のメディアに、そのポジションを取って代わられ、どんどんと下火に。
いわゆる、オワコン状態になっていきます。
絵師はともかくも、彫師や摺師はほとんど仕事がなく、
彼らの技術は、衰退の一途を辿っていくばかりでした。。。

「このままでは、伝統的な木版画の技術が消滅してしまう!」

と危機感を抱いた版元の渡辺庄三郎らが、
大正から昭和初期にかけて、制作、出版したのが新版画。
浮世絵と同様に、絵師、彫師、摺師による分業により制作されているのが特徴です。
と、技法こそは伝統的ではありますが、
時代に合わせて、作風はモダン・・・いや、モダーンなものに。


川瀬巴水 《東京十二題 木場の夕暮》 1920年 渡邊木版美術画舗


描かれた美人たちも、モダーンな装いに身を包んでいます。


小早川清 《近代時世粧ノ内 六 口紅》 1931年 千葉市美術館


どの作品もオシャレな印象で、現代の眼で見ても、十分にモダーンでした。

と、ついつい何度も口に出したくなる 「モダーン」 というフレーズ (笑)
かなりのパワーワードです。
新版画を 『モダン浮世絵』 でもなく、『浮世絵モダン』 でもなく、
『浮世絵モダーン』 と命名した町田市国際版画美術館のネーミングセンスに脱帽しました。
ちなみに、次回の展覧会は、“版画キングダム” だそう。
そちらも、なかなかのパワーワード!
町田市国際版画美術館の展覧会タイトルは、今後も要チェックです。
星星


さてさて、今回出展されていた中で印象的だった作品をいくつかご紹介。
まずは、吉田博の 《瀬戸内海集 帆船 朝》 です。


吉田博 《瀬戸内海集 帆船 朝》 1926年 個人像


朝もやと水面のゆらめきの表現が絶品!
船の帆越しに見える朝日も、本当に眩しく感じるほど。
思わず、石原裕次郎ばりに目を細めてしまいました。
ちなみに、この朝バージョンの隣に、午後と夕方のバージョンも展示されていました。




実は、よく見ると、使われているのは同じ版木。
摺り方を変えるだけで、こんなにも表情が変わるのですね。


続いては、小原古邨(祥邨)の 《五位鷺》 です。


小原古邨(祥邨) 《五位鷺》 明治後期 千葉市美術館


クレッセントムーンの明かりのもとに、アローンなゴイサギ。
水面のスクリーンにシルエットが映し出されています。
まるで映画のラストシーンのように抒情的な一枚。
耳を澄ますと、ノクターンが聞こえてくるよう。
絵もさることながら、ゴイサギの胸元のふわふわ感、
水辺のウエット感の再現が、特に素晴らしかったです。
摺師の技が冴えわたった一枚だよーん。(←無理やり、「ーン」 で終わらせてみた)


最後に紹介したいのは、山村耕花の 《梨園の華 十三世守田勘彌のジャン・バルジャン》


山村耕花 《梨園の華 十三世守田勘彌のジャン・バルジャン》 1921年 町田市立国際版画美術館


確かに、『レ・ミゼラブル』 のジャン・バルジャンは、
パンを盗んで投獄されたため、社会を憎み、心が荒んでいた時期はありましたが。
これほどまでに??
廃人みたいな表情をしています。
心が荒んだというレベルを通り越して、人としての何かを失っているような。
もはや、ゾンビやアンデットのよう。
コイツが近づいてきたら、とりあえずホームセンターに逃げ込みましょう。
あと、ちょっとだけ大沢樹生に似ています。




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