(稲垣栄洋 新潮選書)

ライオンは、百獣の王である。恐ろしい牙、鋭い爪、どんな動物をも震え上がらせるうなり声。まさに最強の生き物と言っていいだろう。
ところが、ライオンに食べ尽くされてシマウマが滅びてしまったという話は聞かない。むしろ、絶滅が心配されているのはライオンの方である。


「自然界では強い者だけが生き残るはずなのに、どうしてたくさんの弱い生き物たちが、自然を謳歌しているのだろうか。」

この本は、<雑草生態学>を専門とする農学博士がフィールドワーク活動の中から発見した、

ときに目を見張るような、まるで弱者であることこそが強みであるかのような、小動物や昆虫や植物たちの<生存戦略>を紹介したものである。

弱いように見える彼らのような生き物たちが、厳しい自然界を生き抜いているのには、それなりの理由があったのだ。

たとえば・・・「ずらす」(ニッチ戦略)。

弱肉強食の生物の世界では、「強者」とはナンバー1のことをいう。つまり、ナンバー2でさえもが「弱者」として、いちいち競合していたのではやがて滅びゆく運命ということになる。

ここで取りうる<弱者の戦略>とは、どんなに小さな場所であろうとも、他の生物ではナンバー1になれないような、自らがナンバー1になる自分の居場所を「探す」ことだ。

ナンバー1しか生き残れない。しかしナンバー1になるチャンスは無数にある。そしてナンバー1の条件は「誰にも負けない」ことではなく、「誰にもできない」ことなのである。

<弱者は「複雑さ」を好む>

ルールがシンプルなゲームは、強い者が勝者となりやすい。弱者が強者に勝つには、条件が多様で複雑であることが大切なのである。

<弱者は「変化」を好む>

安定した環境では、激しい競争が起こる。そして、強い者が生き残り、弱い者は滅びていく。ある程度、撹乱がある条件なら、必ずしも強い者が勝つとは限らない。

<「最悪」の条件こそ「最高」である>

劣悪な条件は、誰にとってもいやである。しかし、弱者にとっては、それこそが強者に対抗し勝者となれる大きなチャンスなのである。

以上のような、<弱者必勝の条件>を生存の掟として、さまざまな生物が自分自身の居場所を見出し、そうした多くの生物のニッチによって自然界は埋め尽くされているといってよい。

これはまさしく「椅子取りゲーム」のようなもので、一つの椅子には一つの生物しか座ることはできず、こうしてあらゆる生物たちが、常に椅子を奪い合っているということなのである。

「ビジネス戦略」や「人生戦略」というように、私たちは「戦略(Strategy)」という言葉をよく使う。しかし「戦略」という言葉は、人間社会だけのものではない。
生物学の世界でも「戦略」という用語はよく用いられる。知力に優れた人間ならまだしも、生物の世界に「戦略」などあるのだろうか、そう思われる方もいるだろう。
知力に劣るはずの生物たちだが、その戦略には目を見張るものがある。
自然界は厳しい。無策で生き抜けるような生ぬるいものではないのだ。この世に生きとし生けるすべてのものは、戦略を駆使して厳しい自然界を生き抜いている。


(2014年10月)

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