(Jダイアモンド 草思社)

遺伝子をめぐる人間と二種類のチンパンジーの違いはごくわずかでしかない。しかし、このわずかな違いが私たち人間に特有な性質をもたらしているのは明らかである。遺伝的な歴史をたどると、これらの変化はごく最近になって生じたことがわかる。私たちはわずか数万年のうちで、人間のもつユニークで危なっかしい性質をはっきり示しはじめていたのだ。言語や芸術、人間のライフサイクルに始まり、みずからの種やほかの種を絶滅に追いやる人間の能力――こうした善悪両面におよぶ特徴を人間は、なぜ、どうやって発達させてきたのだろう。

<もし、宇宙人の研究者が人間を目の当たりにする機会でもあれば、人間はコモンチンパンジー、ボノボ(ピグミーチンパンジー)に続く、三番目のチンパンジーだとただちにそう分類されてしまうだろう。>

構成する遺伝子の98%以上は同じであることが分かっているチンパンジーと別れて、私たちはどうやって「人間」になったのか。

というのが、

デビュー作である『人間はどこまでチンパンジーか?』以来、この著者が一貫して問い続けてきたこの本におけるテーマなのではあるが、

進化生物学、生物地理学のもともとの素養に加え、人類進化学、古環境学、育種学、言語学までに渉る該博な科学的知見を駆使して、

「人間とは、文明とは何か?」という問題に迫った『銃・病原菌・鉄』でピュリッツアー賞を受賞し、「ゼロ年代の50冊」の第1位に選出されたダイアモンドなのだから、

いつ、なぜ、どのようにして人間は「ありきたりな大型哺乳類」であることをやめたのか?

という「人類進化史」の謎が、進化生物学の手法によって鮮やかに解明されていったとしても、

人間は動物ではあるが、ほかのいろいろな動物とは違って、特別に偉いのだ、なんてことを言おうとしているわけでは、もちろんないし、

ヒトの生息分布の拡大がどうやって言語と文化の興隆をもたらしたのか?

という「文化的特質」の特異性を、生物地理学の観点から丁寧に考察して見せるのも、

ある民族がほかの民族を征服できるほどの優位性を獲得できたのは、決して生物学的に優れていたからではなく、

単に地理的条件に恵まれていたために、思いがけずに征服者になってしまったに過ぎない、と言いたいわけなのである。

生物界の中では、まことにユニークな存在ともいうべき人間は、いまや地球生態系に大規模な影響を与えてしまうという意味で、<重要な存在>となってしまった。

なぜ人間にだけそんなことができたのか。
それを可能にした人間の性質はどのように進化してきたのか。
この現状に至った過去の経緯を知らなければ、人間という生物の将来を導いていくことはできない。

これこそが、この著者が<若い読者のために>伝えたかったこの本の真意なのである。

自分の生涯を書きとどめたビスマルクは、「私の子どもと孫へ。過去を理解し、将来の手引きとするために」とその回想録を捧げた。
この精神こそ、私が自分の息子やその世代に本書を捧げる理由にほかならない。本書がたどってきた過去から私たちが学ぼうとするのであれば、その将来はほかの二種のチンパンジーの将来よりは明るいものになるのではないだろうか。


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