シュヴェリンの教会 でも、メルンの教会 でも立派なパイプオルガンを見たですが、

パイプオルガンの本領に遭遇するのは、この後のお話。

本当に北ドイツのあちらこちらでパイプオルガンには接近遭遇してきたのですね。


そうしたこともあって、帰ってきてからも家にいてかけるCDといえば、

ずうっとオルガン音楽で過ごしておるのですけれど、

折りしもこのほど出かけた読響の演奏会はオルガン三昧とも言うべきものでありました。


読売日本交響楽団第169回東京芸術劇場マチネーシリーズ


ちなみに曲目はといいますと、

バッハの超有名なオルガン独奏曲である「トッカータとフーガ ニ短調」を

ストコフスキーが編曲した管弦楽版(つうことは、オルガンではないわけですが)、

プーランクの珍しい作品、「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲」、

そしてサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」の3曲。


プログラミングにはこだわりを見せる下野竜也指揮ならではでありましょうかね。

この演奏会に先立つ9月9日には、日にちの「9、9」に絡めて

ハイドン の交響曲第9番とブルックナーの第9番(いずれも3楽章構成)を

組み合わせるくらいですから。


それはともかくオルガンですが、

どうも印象としては「悪の総帥」が弾いてそうなイメージがありますね。

って、誰もがそう思うかは不明ですが…。


ふいに「グレート・レース」という映画を思い出すわけで、

ヒーローであるグレート・レスリー(トニー・カーティス)と大レースを繰り広げ、

ことあるごとにレスリーの邪魔をする敵役のフェイト教授(ジャック・レモン)も

しっかりアジトたる自身の邸宅に設えたオルガンで「トッカータとフーガ」を弾いとりました。


ちなみに白尽くめの服装のレスリーに対して、

黒尽くめの服装で妨害行動にばかり知恵を働かすフェイト教授は

どう見ても「チキチキマシン猛レース」のブラック魔王。


映画がニューヨークからパリへの大レースを扱ったものだけに、

ブラック魔王のみならず、映画そのものが「チキチキマシン…」にヒントを与えたことは

間違いなさそうですね。


それのみならず、妨害行動の思いつきは見事ながら結果的にはその妨害のとばっちりが

常に自分の方に災いしてしまう辺り、ロードランナーに対するワイリーコヨーテでもあるかのよう。

広くカートゥーンに影響を与えている作品やもしれません。


と、また話は横道でしたけれど、

やはりオルガンのすごさは直接聴かないと、ということになりましょうか。

家でいくらCDを聴いたとて感じることのない、空気の振動が肌に伝わる感覚、

これは凄いものではなかろうかと。


北ドイツでたびたび接したオルガン演奏で、教会の会堂内で天井から降ってくる、

あるいは全身が音に包まれるという感じは得ていましたけれど、

久しぶりにサン=サーンスの「オルガン付き」を聴いて、

そんなふうに思いましたですよ。


ところで、管弦楽版の「トッカータとフーガ ニ短調」を聴いておりましたときに

やはり息を吹き込んで音を出す管楽器との親和性に思い至ったのですが、

そう考えると、弦楽器、オルガン、ティンパニという珍しい組み合わせのプーランクの曲も

コンパクトに弦楽器、管楽器、打楽器を組み合わせた音色の再現と思えば、

必ずしも奇を衒ったものではないのかも…と思ったりもしたのですね。


しかしまあ、読響としては珍しく?アンコールで演奏された「小フーガ ト短調」、

これが本来のオルガン独奏で始まって、緩やかに管弦楽の合奏にバトンが渡され、

再びオルガンに帰ったかと思うと、また管弦楽につなげられていました。


ストコフスキーによる編曲のように完全に管弦楽に移し変えられていたりするのは聴きますが、

オルガンも含めたアレンジというのはありそうでないような。

もしかしてこのためのスペシャル・アレンジ?

そうまでするとなると、独創的な下野プログラミングもここに極まれり。

個人的には、このアンコールが「もっとも堪能した感」のあるところでしたから。