METライブ in HDヴェルディ の歌劇「ルイザ・ミラー」を見てきたのでありますよ。

元来オペラに詳しくないものですから、この映画館でのオペラ上映で満足してしまったりするも、

その実、詳しくない素人の印象ながら、これまでに見た中で「おおお!」という思いを抱いたのは

数少ないなあとも。ですが、このほど見た「ルイザ・ミラー」は

「おおお!」にかなり近いところまで行っておりましたよ。


どうやらこの「ルイザ・ミラー」という作品は、翌々年(1851年)作曲の次々作から

ヴェルディと聞いてその作品としれる「リゴレット」、「イル・トロヴァトーレ」、「椿姫」 などなどが

生み出されていく直前に作られたものであるということで、知名度的には今一つ。


辛うじてタイトルを聞いたことがある程度で(オペラ素人がですが)、

作風もその後のヴェルディらしさが全開する以前、今回の出演者による幕間インタビューでも

始めの方はドニゼッティ 風で…てなことを語られるものなのでありました。


その辺の違いを詳しく語れるだけの知識はありませんが、

「おおお!」に近いと感じた理由といたしましてはドラマの進行と音楽の進行の結びつき度合が

非常に高いものであるなあと感じたところにありまして。


そして、セリフ的な歌唱にも違和感がなく

また唐突にアリアが歌い上げられてしまうといった印象があまり無い。

つまりはドラマとしての全体構成が歌劇であることを理由に損なわれていないといいますか。


話としては身も蓋もないメロドラマ(といって、原作はシラーの戯曲だったのですな…)ながら、

それをドラマとして見せるのに音楽が実に効果を発揮しているも思えることから、

これぞ本当のオペラなのではなかろうかと思ったりしたわけです。

もっとも他の作品でも同様なのを気付かず、今回初めて思い至ったのやもですが(笑)。


ところで、素直に「おおお!」ではなくして、「おおお!」に近いと思ってしまった背景としては、

やはり幕間インタビューの中でヴェルディ晩年の「オテロ」と比べるような話が出てきたからで。


この作品でヴルムは明らかにヒールですけれど、イヤーゴに比べるとまだまだかわいい。

結局のところ最終幕では前にもルイザ(本作のヒロイン)とロドルフォ(ルイザの恋人)は

ヴルムほかの計略にかかって、好きだ嫌いだ、裏切った裏切られた…という愁嘆場を

展開するんですが、どうしても痴話喧嘩の果ての無理心中に見えてしまうわけですが、

「オテロ」ではイヤーゴの奸計で「耳に毒を注がれた」オテロが一方的に激昂、

有無を言わさずデズデモーナを殺害してしまうわけです。


後から真相を知ったオテロの嘆きたるや、こちらの方が悲劇の度合が強いように思うのですよ。

そうした点で、ストーリー的に手放しで「おおお!」ではなかったものの、

久しぶりにこのプロダクションでDVDがあるなら買いたいものだと思える一作ではありました。


そうした思いと共通かどうかは分かりませんけれど、

実際のメトロポリタン歌劇場に来ていた聴衆にとっては

お気に入りのプラシド・ドミンゴが登場したこともあってか、満場のスタンディングオベーション。

それだけの公演ではありましたですよ。