夕方のNHKニュースの中に
「ストップ詐欺被害 私は騙されない!」なるコーナーがありますな。
見かけるたびに「まだ続いているんだぁね…」と思うだけに、
いったいいつ始まったんだったかとちょいと検索したところでは
どうやら2014年からということなので、もう4年以上も続いているのですなあ。


当初、「オレオレ詐欺」と言われていたものが「振り込め詐欺」と言われたり、
「還付金詐欺」といったバリエーションまで見せるようになって、
仕掛ける側も工夫を凝らす(そんな工夫しなくていいんですが…)のにも対応して
注意喚起を呼び掛ける必要性があるのでしょうけれど、
それにしても長く続いているもので。


概して言えるのは「詐欺」というのは多分に心理戦の様相でありますね。
TVでかほどの長きにわたって疑わしきは怪しむことを伝えてますから、
そう簡単には騙されないぞと身構えたりもするわけですが、
そうした用心の扉をひょいとこじ開けてしまう方法があったりする。


そして、騙されている側は全く騙されていることに気付かなかったりもするとなれば、
暗示やら洗脳やらという、人の心理を手玉にとるようなことなのかもです。


現実世界にあっては「なんだってなんてこと、するかな?」と思う詐欺ですけれど、
いったん映画の中でのお話となると、騙されようを面白く見てしまったりするという。
例えば映画「スティング」などは、その後にやたらたくさん映画をみるようになった
きっかけを作った作品のひとつですし。


ですが、そこで展開する話が自らの身近に近く感じられるようなことだったりすると
喜んで見てばかりもいられない…ということを映画「フォーカス」を見ていて思いましたですよ。



ウィル・スミス演じる主人公のニッキーは大掛かりな詐欺グループの元締め役ですが、
このグループの仕事ぶりがまず示されるのは、人で混み合う繁華街での集団スリでして。


例えばぶつかったり、転んだり、とにかくターゲットの視線といか集中力(フォーカスですな)を
あらん方に外してしませば、本人の気付かぬうちに無防備状態の出来上がり。
後は財布でも時計でもネックレスでも掠め取り放題というわけです。


映画としては、あふれる人出の中で金品を掠め取り、さっさと仲間に渡して
また次のターゲットにと、あたかも人波を泳ぎわたるかのような流れを見せ、
その全くよどむことなく進むさまは何ともスタイリッシュな映像とも言えそうなのでありますよ。


ですが、所詮スリはスリ。

先ほど触れたようなことでいえば身近に起こりそうなものでもあるだけに、

流麗でよどみない動きを見せるスリ・グループの姿には

映画の中のお話とは思えない、明日は我が身の感が湧いてきてあまりいい気分ではないなと。明日は我が身といっても、ヨーロッパの街なかを歩いていたら起こるかも…という程度ですが。


とまあ、こうした導入部にはいささか眉をひそめてしまったものの(個人的印象です)、

その後は詐欺そのものがメインというよりも、人と人との間での心理的駆け引きが山盛り。

あたかも狐と狸の化かし合いとはこのことかとでも言いましょうか。


人の心理を突いただまし方というか、信じ込ませ方というか、「ふ~ん」てなものですけれど、

登場人物たちにとってもどこまでが本当の気持ちで、どこからがそうでないのか、

整理がつかなくなってしまうのではありませんかね。


登場人物相互のだまし合いは見ている側にとって、

それと分かる場合と分からない場合があって、後から「そうだったんだ」と思うものもあれば

映画が終わっても気付かないままということも、おそらくありましょう。


それだけに、乾くるみの小説「イニシエーション・ラブ」を引き合いに出すのは

適当ではないかもしれませんけれど、見せ方の点では

観客のミスリードをあえて誘うような場面もありましたなあ。


その意味では話を分かった後になって「あのシーンはこういうことだったんだぁね」と

勘ぐるのも一興…ではあるものの、もっと違った仕上がりの作品にもできたのではと思うと

少々残念な気もしましたですよ。


とまれ、「私は騙されない」という意識が詐欺にとってはカモだったりして。

NHKニュースのかのコーナーが続いている限り、人は騙され続けるのかもしれませんなあ…。