嫉妬事件 (文春文庫)

表紙の雰囲気とタイトルで完全に勘違いするでしょう? 女同士の激しい嫉妬が巻き起こした陰湿な事件。はたまた内面を隠しに隠して微笑む美女同士の腹の内が暴露されていくというような幻想的なミステリー……とにもかくにも若い女性同士の何らかのいざこざ的な部分が事件に繋がっていくと想像してたんですが全然違いました。っていうか違い過ぎて予想をはるかに上回りすぎて一瞬意識が飛びます。


これは一部の人には有名な京大ミス研のうん●事件を下敷きにしてあるんです。

竹本健治さんの『ウロボロスの基礎論』を読んでる方ならピンと来るかな?伏字にせずとも●の部分は分かるでしょう。あの文字しか入りません。想像通りの三文字「うん●」が主役な作品です。


城林大学ミステリ研究会に舞台を移しはしていますが、元々は実話だそうで何故か本棚に例のものが放置されていたというところから延々と推理合戦が続いていきます。誰が置いたのか、何が目的なのか、誰をターゲットにしているのか。

凶器がうん●でさえなかったら、アントニーバークリーの毒入りチョコレート事件のような楽しさを味わえるはずが、ブツがブツなんで時々この人たち何でそんなものの為にここまで時間を費やしているんだろうと正気に返ってしまいます。


この作品の恐るべきところは何かというと、後半に短編一つが挟まれているとはいえ、ほぼ全てがこのうん●を巡る謎解きに始終しているという点でしょうか。未だかつてここまで真摯にうん●に取り組んだ作品があったでしょうか。おまけにそれを解体して証拠を探ろうなどと誰が考えるでしょうか。バカミスの定義がよく分からないのですが、個人的にはこの作品はそういう分類に属するんでないかと思わせられます。

表紙と中身の相違は作戦なんでしょうか。うまくしてやられた感ががあります


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