報道抑圧の「記念碑」的な文書だと思う。首相官邸が1日、東京新聞に申し入れた。「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は、断じて許容できない」

▼加計(かけ)学園問題を巡り、記者が菅義偉官房長官の会見で「獣医学部設置の認可保留」に触れつつ質問した。官邸が問題視したのは保留が正式発表前だったこと。だが、保留の方針は2週間前に各社が報じていて、秘密でも推測でもなかった

▼質問した望月衣塑子(いそこ)記者は、菅氏のあいまいな回答を繰り返しただし、立ち往生させてきた。申し入れは意趣返しに見える

▼何より、官邸の言う通り「未確定な事実や推測」に基づく質問が禁じられたら、例えば疑惑の取材は一歩も進まない。ニュースは政府発表で埋め尽くされてしまう

▼疑惑が事実でないならそう説明すればよい。国民から権力を託された公人には、不都合であっても答える義務がある。最大の「武器」である質問自体を封じる動き。メディアであれば社論の違いを超え、一致して押し返さなければいけない

▼残念ながら産経新聞は官邸の方と足並みをそろえ、執拗(しつよう)に望月記者を批判している。他の大手メディアも申し入れに抗議する様子はない。政府の圧力とメディアの従属が同時進行する。報道の自由が掘り崩されていく。(阿部岳