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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2017/05/21
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 51.マンハッタン(Manhattan)

【現代の標準的なレシピ】ライ・ウイスキー(40)、スイート・ベルモット(20)、アンゴスチュラ・ビタース1dash、マラスキーノ・チェリー 【スタイル】ステア

 カクテルの女王」の異名をもつマンハッタン(Manhattan)。考案者が誰かは分かっておらず、誕生の由来にも諸説があります。しかしながら、1870年代半ばから1884年までの間にニューヨークの社交クラブ「マンハッタン・クラブ」で考案され、マンハッタン島もしくはそのクラブ名にちなみ「マンハッタン」と名付けられ、世界中へ広まっていったのは間違いないということでは、専門家の意見はほぼ一致しています。

 諸説の中で、現代のカクテルブックなどで一番よく紹介されるのが、「ニューヨークの銀行家令嬢だったジェニー・ジェローム(Jennie Jerome)=後の英国首相ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)の母=が、1876年の大統領選の時、マンハッタン・クラブで候補者支援パーティーを開き、そのとき考案された」という説ですが、それを裏付ける資料は伝わっていません(※考案者はジェローム自身、あるいはイアイン・マーシャルという医師だったとも伝わっていますが、いずれも確かな根拠は示されていません)。

 なによりも、チャーチル自身が後年の自伝で、「母はその当時フランスにいて、妊娠もしていたので、その支援パーティーの場にはいなかった」と記しており(出典:Wikipedia英語版)、ジェローム自身も生前、このカクテルの誕生に自分が関わったという発言を一切残していないことから、「ジェローム考案説」は後世のつくり話の可能性が高いことはほぼ間違いありません。
 他にも、西部開拓時代の1846年、メリーランド州のとあるバーで、負傷したガンマンのためにバーテンダーが気付け薬として作ったという説(欧米の専門サイト情報)もありますが、根拠資料は見つかっていません(※ちなみにチャーチルはその後、マンハッタンよりもマティーニを愛したことでよく知られているます)。

 ところで、欧米のカクテルブックでマンハッタンが初めて活字になったのは、従来は1887年に米国で出版されたカクテルブック「How To Mix Drinks」の改訂版(※著者は「カクテルの父」の異名を持つジェリー・トーマス<Jerry Thomas 1830~1885>で、死去の2年後に発刊)であると言われてきました。
 だが近年の研究で、1884年に同じ米国で出版された2冊のカクテルブック、「The Modern Bartenders' guide」(バイロン<O. H. Byron>名義=末尾【注】ご参照)、「How To Mix Drinks:Bar Keepers’Guide」(ジョージ・ウインター<George Winter>著)が初出資料であることが有力になってきました。

 バイロンやウインターの本はその存在は知られていましたが、近年まで絶版になっており、研究の対象として人目に触れる機会はほとんどありませんでした。しかし2000年以降に復刻版が刊行され、米国の著名なバーテンダー&カクテル研究者のデイル・デグロフ氏や、「The Manhattan:The Story of the First Modern Cocktail」(2016年刊)の著者フィリップ・グリーン氏によって、「トーマスの著書よりも3年早く」マンハッタンが紹介されていることが確認されました。

 バイロンの本では、以下の2種類のレシピのマンハッタン(いずれもステア・スタイル)が収録されています(ウインターの本では1種類で、レシピはバイロンとほぼ同じですが、ベルモットの種類についての言及はありません)。
・マンハッタンNo1(Manhattan Cocktail No.1)
 ウイスキー2分の1Pony(約30ml。19世紀によく使われた容量単位で、1ponyは1オンス<onz>にほぼ同じ)、フレンチ(ドライ)ベルモット1pony、アンゴスチュラ・ビターズ3~4dash、ガムシロップ3dash
・マンハッタンNo2(Manhattan Cocktail No.2)
 ウイスキー2分の1Wineglass(グラスの容量は不明)、イタリアン(スイート)ベルモット2分の1Wineglass、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、キュラソー2dash

 興味深いのは、ドライ・ベルモットを使うマンハッタンの方が、現代標準レシピのスイート・ベルモットを使うものより先に掲載されていることです。マンハッタン成立の過程がうかがえる貴重なレシピとも言えます。米国内で欧州産のドライ・ベルモットが普及し始めたのは、スイート・ベルモットよりも後なので、なぜドライの方が「No.1」の位置づけなのか、これは少し謎です。

 その後、米国内で出版されたカクテルブックで「マンハッタン」のレシピがどのように変化していったのかを、少し見ていくとーー。
・「How to mix drinks」(ジェリー・トーマス著、1887年改訂版)米
 ライ・ウイスキー1pony、スイート・ベルモット1Glass(分量についてトーマス自身が言及していないので正確には不明だが、ウイスキーとの比率を考えると30~60mlくらいか?)、キュラソー(またはマラスキーノ)2dash、ビターズ3dash、飾り=レモンスライス(シェイクして小さい角氷2個を入れたクラレット(ワイン)グラスに注ぐ)

・「American Bartender」(ウィリアム・T・ブースビー著、1891年刊)米 
 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(ステア)

・「Modern American Drinks」(ジョージ・J ・カペラー著、1895年刊)米 
 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、ペイショーズ(またはアンゴスチュラ)・ビターズ2dash、レモン・ピール、飾り=チェリー(ステア)

・「Dary's Bartenders' Encyclopedia」(ティム・ダリー著、1903年刊)米 
 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、ペイショーズ(またはアンゴスチュラ)・ビターズ2dash、レモン・ピール、飾り=チェリー

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」(ウェーマン・ブラザース編、1912年刊)米 
 ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、キュラソー1dash、アンゴスチュラ・ビターズ1~2dash、ガム・シロップ2~3dash

・「173 Pre-Prohibition Cocktails)」 & 「The Ideal Bartender」(トム・ブロック著、1917年刊)米 なぜか掲載なし

・「ABC of Mixing Cocktails」(ハリー・マッケルホーン著、1919年刊)英
 ライ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る)
 ※ベルモットの銘柄は、原著内に「チンザノ・ベルモット」の広告が出ていることから、マッケルホーンはおそらく、チンザノを使っていたものと想像されます(なお、マッケルホーン自身は、レシピに「カクテル名は、ニューヨーク・シティのマンハッタン島に由来する」と添え書きしています)。

・「The Savoy Cocktail Book」(ハリー・クラドック著、1930年刊)英 
 ※4種の「マンハッタン」のバリエーションを収録。ワイングラスで提供する「マンハッタン」(シェイク・スタイル)と、カクテルグラスで提供する3種(内訳は、スタンダードなものとスイート、ドライ)の計4種を紹介しています。レシピは以下の通りです。

 クラレット・スタイル=ライ・ウイスキー30ml、ベルモット(スイートとドライをミックス)1glass、キュラソー(またはマラスキーノ)2dash、アンゴスチュラ・ビターズ3dash、レモン・スライスと角氷2個を入れてサーブする(シェイク・スタイル)※ジェリー・トーマスのレシピをベースにしたバリエーションとも言えます
 スタンダード=カナディアン・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash(シェイク・スタイル)
 スイート=ライ(またはカナディアン)・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1(ステア・スタイル)
 ドライ=ライ(またはカナディアン)・ウイスキー2分の1、ドライ・ベルモット4分の1、スイート・ベルモット4分の1(ステア・スタイル) 
 ※なお、「The Savoy…」もカクテル名については、「マンハッタン島にちなんで名付けられた」と紹介しています。

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」(1930年刊)米 
 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ピール ※「Ciro's」とは、ハリー・マッケルホーンもパリで「Harry's New York Bar」を開業・独立するまで働いていたロンドンの高級クラブ「The Ciro's Club」のことです。

・「The Artistry Of Mixing Drinks」(フランク・マイアー著 1934年刊)仏 
 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット4分の1、ドライ・ベルモット4分の1、

・「World Drinks and How To Mix Them」(ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米
 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、オレンジ・ビターズ1dash、アンゴスチュラ・ビターズ1drop、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「The Official Mixer's Manual」(パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 
 ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット6分の1、ドライ・ベルモット6分の1、ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S.クロケット著 1935年刊)米 
 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash

・「Mr Boston Bartender’s Guide」(1935年初版刊)米 
 ライ(またはバーボン)・ウイスキー1.5onz(約45ml)、スイート・ベルモット4分の3onz(約22~23ml)、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、飾り=チェリー

・「Café Royal Cocktail Book」(W.J.ターリング著 1937年刊)英 
 ライ(またはバーボン)・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・オレンジ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」(ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 
 バーボン(またはライ)・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の2、アンゴスチュラ・ビターズ1dash、マラスキーノ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

・「Esquire Drink Book」(フレデリック・バーミンガム著 1956年刊)米 
 ライ・ウイスキー2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1dash、飾り=マラスキーノ・チェリー

 上記のように、ウイスキーの割合が多くなる、すなわち辛口のマンハッタンが登場するのは、ハリー・マッケルホーンの名著「ABC of Mixing Cocktails」(1919年刊)が初めてです(レシピは、「ライ・ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、アンゴスチュラ・ビターズ1dash)。そして1930年代以降は、徐々にウイスキーの割合が多くなる「ドライ化」が進んでいきます。

 日本では、1907年(明治40年)出版の文献に初めて「マンハッタン」の名が見られます。遅くとも1890年代末までには、横浜や神戸の外国人居留地のホテルのバー等では普通に提供されていたことでしょう。
 なお、1957年(昭和32年)に出版されたカクテルブック「洋酒」(佐藤紅霞著)では、「マンハッタン・コクテール」として「ライ・ウイスキー2分の1、ドライ・ベルモット2分の1、アンゴスチュラ・ビターズ、クレーム・ド・ノワヨー(アーモンド風味のリキュール)各2dash」とあり、なぜかドライ・ベルモットを指定しています。スイート・ベルモットを使うのは「スイート・マンハッタン」とわざわざ区別していることから、日本では1950年代でもなお「マンハッタン」のレシピ(定義)は揺れていたようです。

 マンハッタンはマティーニ同様、レシピはシンプルですが、「バー(バーテンダー)の数だけバリエーションがある」というカクテルです。酒呑みたちもしばしば、ドライかスイートか、割合はどうか等をめぐってカウンターで議論を交わします。
 有名なカクテルですが、アルコール度数が高いこともあって、日本のバーで頼む人は実際にはそう多くありません。辛口志向、ライト志向の昨今、少し敬遠されているのかもしれませんが、難しいことはあまり考えず、貴方もたまには「マンハッタン」を味わってみませんか?

 ちなみにベースのライ・ウイスキーの代わりに、バーボン・ウイスキー、カナディアン・ウイスキーを使うこともあります。スコッチ・ウイスキーを使う場合は、「ロブ・ロイ」という名前のカクテルに変わります。また、スイート・ベルモットをドライ・ベルモットに、チェリーをオリーブに替えると、「ドライ・マンハッタン」というカクテルになります。

【確認できる日本初出資料】「洋酒調合法」(高野新太郎編、1907年刊) ※欧米料理法全書附録という文献。そのレシピは、「ウイスキーWineglass2分の1、スイート・ベルモット2分の1、オレンジ・ビターズ1~2dash、アブサン1dash、ガム・シロップ1dash」となっています。


【注】著者である「O.H.Byron」について、復刻版の編者であるブライアン・レア(Brian F Rea)氏は復刻版の前書きで「バイロン氏は作家、研究者、バーテンダーとして同時代に存在した歴史的資料がなく、おそらくはこの本(原著)を出版した出版社の編集者自身のペンネームか、あるいは(出版社が考えた)架空の人物ではないか」と記しています。しかし、だからと言って、この本の歴史的価値が下がることは一切ありません。



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Last updated  2022/02/11 11:48:19 PM
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