とね日記

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量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

宇宙はどこまで美しいのか(朝日カルチャーセンター)

2015年01月12日 16時22分31秒 | 物理学、数学

3連休の初日の土曜日は朝日カルチャーセンター新宿教室で宇宙物理学の講座を受講してきた。

宇宙はどこまで美しいのか(朝日カルチャーセンター)
東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 村山斉先生
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=275221&userflg=0

以前、村山先生の講演を聴講したのはいつだったかと検索してみたら一昨年の9月、「時空とは何か(朝日カルチャーセンター)」だった。

朝日カルチャーセンター新宿教室としては超人気講座である。予約開始時にはビル7階の一般教室を予定していたのだが、結局200人が受講できる地下1階の住友ホールで開催となった。会場は満席である。村山先生が登壇され、講義が始まった。

あプロジェクターで映されるスライドを印刷した配布資料は38枚。1ページ4枚で両面印刷なのでスライドは全部で300枚!午後1時から5時半まで間に5分間の休憩を3回はさんでの長時間講義。全体の流れは次のようなものだ。

- 宇宙は美しい
- 美しさとは?
- 宇宙空間の美しさ
- 物理法則の美しさ
- 統一理論
- 保存則は対称性のおかげ
- 法則は美しい しかし現実は多様
- 宇宙の自発的対称性の破れ
- 自然さ
- インフレーションと究極の美しさ
- 美しさ vs 多元宇宙


- 宇宙は美しい

講座のつかみとして美しい宇宙の写真が何枚もスクリーンに大写しされる。銀河、地球、木星、土星、太陽の表面、猫目星雲、ベテルギウス、かに星雲、わし星雲、馬頭星雲、イータカリーナ星雲(神秘の山)、M78星雲、上から見た銀河系、アンドロメダ大星雲、回転花火銀河、ソンブレロ星雲、M87星雲、子持ち銀河、マウス銀河、触覚銀河など。

この後どんどん遠くの天体の写真が映される。47億光年先のチェシャ猫の顔の形に見える銀河、銀河団、重力レンズ効果で引き伸ばされた銀河、暗黒物質の説明、133億光年先の銀河、136億光年先の宇宙(真っ黒で何も見えない)、138億光年先の電磁波で見える宇宙の果て(宇宙マイクロ波背景放射)

ここまでの映像で僕にとって目新しかったのは640光年先にあるベテルギウスの表面の写真。なんと模様が写りこんでいるのだ。これは「死期」が近づいているベテルギウスが「どくんどくん」と脈打っていることを示しているそうなのだ。このようにすごい解像度で恒星を調べられるようになっているなんて知らなかった。

ベテルギウス(JAXAの宇宙情報センターのホームページ内)
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/betelgeuse.html

あと印象に残っているのはCG動画で紹介されたアンドロメダ銀河と私たちの銀河系の映像。最終的にこの2つは合体して楕円銀河になる様子が一目瞭然だ。映像は2つの銀河から離れた位置からとらえたものと、地球上から見たときの映像が紹介される。夜空に浮かぶアンドロメダ銀河が近づいてくる姿が圧巻そのもの。実際に見てみたいけど、それは無理な話だ。見せていただいた動画はこれである。



そしてこのセクションの最後で宇宙の始まりのインフレーションから138億年後(現在)までの流れが紹介される。


- 美しさとは?

美しさということについて、歴史上の学者たちの考えが紹介される。ファインマン、アリストテレス、ヘルマン・ワイル、アインシュタイン、ホーキング、ゲルマンなど。

物理学者にとっての美しさとは「対称性」である。つまり

- 対称性が高いこと: 対称性は数えられる。
- 少ない原理、定数で多くを説明: 「経済的」な理論が美しい
- 見てて安定感、自然さ: ちょっと主観的だが、この点も満たせればよい

見の周りの建築物の対称性の数を数えてみよう。(ベルサイユ宮殿、中国の橋、東京タワー、パリの凱旋門の周囲の道路、東京スカイツリー)

対称性の数には連続のものと離散のものがある。たとえば円は回転についての(無限個の)対称性が1つ、裏返しをする対称性が1つで合計2個の対称性があり、球には3個の対称性がある。


- 宇宙空間の美しさ

宇宙空間を光速の10兆倍の速度で飛行して見える景色の動画が移される。これはすごい。宇宙はどこまでいっても同じ景色が広がっていることがわかる。宇宙はほぼ等方的で一様なのだ。しかし91億光年の範囲を映し出すとフィラメント構造が浮かび上がったり、138億光年先には10万分の1というごくわずかの揺らぎが観測される。

宇宙原理が解説される

- 宇宙はほぼ一様(どの場所も同じ)
- 宇宙はほぼ等方(どの方角も同じ)
- 上下、左右、前後に「並進対称性」
- 3種類の「回転対称性」
- 全部で6種類の対称性と2個

最も美しい空間とは

- 次元がDの空間が持てる対称性の種類は最大でDx(D+1)/2
- 私たちの3次元空間では3x(3+1)/2=6
- 一様・等方な宇宙はもっとも美しい!
- でも実は3種類の最大対称空間がある。(曲率を考えると)

数学的に考えると

- 対称性にはどんなものがあるのか
- 数学者は「群論」を使って研究し、すべて分類されている
- 連続対称性:エリー・カルタン
- 離散対称性:たくさんの数学者(2012)

宇宙マイクロ波背景放射の観測によって宇宙はほぼ平坦であること、加速膨張していることが確認された。


- 物理法則の美しさ

- 物理法則は左右対称(弱い力を除く)
- 物理法則は鏡映対称(弱い力を除く)
- 物理法則は回転対称
- 物理法則は並進対称


- 統一理論

トマス・ゴールド:「複雑な自然現象にはどれにも簡潔で、エレガントで、説得力があり、かつ間違った説明があるものだ。」という言葉を例にとりあげ、科学史上の間違いの歴史をアリストテレス、プトレマイオス、コペルニクスの理論が紹介された。

ファインマン:「あなたの理論がどんなに美しいか、あなたがどんなに頭がよいかは関係ない。実験と合わないのなら、あなたの理論は間違いだ。」という文脈からケプラー、ニュートン、アインシュタインの理論、素粒子の標準理論に至る歴史が紹介された。

物理学の発展は物理法則の統一の歴史でもある。その発展の過程で対称性の数も増えていった。




- 保存則は対称性のおかげ

ネーターの定理が紹介される。対称性は保存則と結びついている。

並進対称性 ⇔ 運動量保存則
回転対称性 ⇔ 角運動量保存則
時間の並進対称性 ⇔ エネルギー保存則

ただし宇宙は時間について原点(ビッグバン)があるので実際にはエネルギーは保存しない。

電荷の保存についての説明で量子力学、U(1)という内部空間のことが説明される。内部空間を回す対称性が電荷や粒子の保存則を導く。

内部空間:たとえばクォークには3つの色があり、その3つの色空間をクウォークは回転できる。電子とニュートリノの空間各点の内部空間は2次元空間。


- 法則は美しい しかし現実は多様

自発的対称性の破れの例として、U型磁石にくっつく多数の釘、ハンガーにつるされたシャツの列、ヒラメ、氷が紹介される。またサルから人間に進化していく系統図のそれぞれの分岐点が自発的対称性の破れであることが解説される。

キラリティ(掌性)も右と左のどちらかを自然が選ぶかは自発的対称性の破れである。Dグルコースがブドウ糖、Lグルコースについても味は普通の砂糖と同じなのだそうである。

参考ページ:A NATURAL WAY TO STAY SWEET
http://spinoff.nasa.gov/Spinoff2004/ch_4.html

回転対称性が破れる例としてNHKスペシャル「神の数式」の番組冒頭、子供たちが鉛筆を立てようと挑戦している映像が紹介される。

超流動、超電導も自発的対称性の例で、ワインボトルの底の形をした図を使って説明が行われる。それぞれについて不思議な動画が紹介された。


- 宇宙の自発的対称性の破れ

まず重力と電磁気力が長距離力なのに、なぜ弱い力が短距離までしか働かないかという疑問が提示される。NHKのクローズアップ現代でヒッグス粒子がなぜ気が付きにくいのかと質問され、国谷キャスターに解説したときのことが紹介された。

LHC、ヒッグス粒子発見までの歴史が詳細に紹介される。説明は標準理論の素粒子から、超対称性粒子の話に進む。この2つの図は初めて見た。美しすぎる!(画像をクリックすると引用元のページが開くようにしておいた。)映画「Particle Fever」はiTunesで英語版が見れるそうだ。日本語字幕は現在交渉中!

標準理論の素粒子
https://www.pinterest.com/pin/133208101452779446/

超対称性粒子(別の図
http://blogs.usyd.edu.au/theoryandpractice/2014/12/particle_fever_2014_1.html

この後、ヒッグス粒子はスピンがなく「のっぺらぼう」であるという説明。まるで千と千尋の神隠しにでてくる「顔なし」に例えられていた。今回見つかったヒッグス粒子がこれだけなのか、兄弟・親戚がいるのかということもわかっていない。

そのことを含め、より高いエネルギーで超対称性粒子や暗黒物質の性質を測るための実験設備(リニアコライダー)のことが紹介される。

統一理論では電磁気、弱い力、強い力のグラフは高エネルギーの1点で交わらないので統一できないが、超対称性を前提とする大統一理論では1点で交わらせることができる。(超対称性を前提としない大統一理論では1点で交わらない。)


- 自然さ

まず世界には不思議な景色が見られるという例がいくつか紹介される。巨大なアーチ型の岩や不安定な状態で立っている岩などだ。それらはいずれ崩れたり倒れたりする運命がある。自発的対称性の破れだ。

ヒッグス粒子の質量も巨大なプラスの質量とマイナスの質量の相殺によって計算される。高橋真理子さんの表現によればこれは「100兆円の国家予算の中で1円の帳尻を合わせるよりも難しい。」ということだ。

このように自然さは実に微妙なバランスの上に成り立っている。


- インフレーションと究極の美しさ

インフレーション宇宙論は次のことを示している。

- 宇宙は最初はものすごく小さかった
- 宇宙のどの部分も皆コミュニケーションをとっていた
- しかし、その小さい宇宙はきっとしわくちゃで、とても小さい
- 全宇宙が原子よりもずっと小さい!
- どうやって平ら、滑らかで大きくなったのか?

インフレーションは「究極のタダ飯」にたとえることができる。加速膨張をもたらす暗黒エネルギーのこと。

- エネルギーが体積とともに増える
- 宇宙の膨張が加速
- もっと体積が増える
- さらにエネルギーが増える

インフレーションの問題

- インフレーションで平ら、均一、等方に広がる
- 対称的な宇宙
- でもどうやってむら、そして銀河、星ができたか?
- 対称性を破らないといけない!
- 小さい宇宙ではミクロの素粒子の法則、量子力学を使う

量子ゆらぎ

- ミクロ世界の不確定性関係
- エネルギー保存則を破ってもよい
- 見つかる前に返しなさい
- たくさん借りるほど早く返さないといいけない
- 粒子と反粒子のペアを作る
- すぐ対消滅して返す
- つまりインフレーション期のゆらぎが宇宙規模に引き伸ばされる
- それは100mの海に1mmのさざなみのゆらぎの程度である

宇宙の果ての3つの調査方法

- 加速器で宇宙を「作る」
- 地下にもぐる
- 重力波を探す

インフレーション中の宇宙

- 4次元時空全体として最大対称
- Dx(D+1)/2 = 4x5/2 = 10種類の対称性
- 数としては4次元の球面と同じ

この後、ホーキングの宇宙論、超弦理論が紹介される。


- 美しさ vs 多元宇宙

ふたたび70億年前から加速している宇宙膨張が紹介される。素粒子5%、暗黒物質27%、暗黒エネルギー68%という比率が紹介されるとともに加速膨張によってそれらがどのように変化するかが解説される。

- 素粒子(物質)は宇宙体積の増大によって薄まる
- 暗黒物質も宇宙体積の増加によって薄まる
- 暗黒エネルギーは宇宙体積の増加によって薄まらない。しかし8倍の体積増加によって7倍~9倍の増加が考えられ、まだよくわかっていない。


暗黒エネルギーの候補として宇宙の真空エネルギーを理論的に見積もると暗黒エネルギーとして欲しい量とは比較にならないほど大きいのでほとんどありえない。これでは宇宙は誕生後まもなく引き裂かれ始めて、星、銀河、生命が生まれない。ここで「宇宙が引き裂かれる」の意味は「離散速度が光速を超えると完全に断絶する」ということだ。(理論物理学最悪の予言)

そのあと人間原理の説明がされた。

でもジレンマが残っている

- 超対称性のいちばん簡単なバージョンだとヒッグス粒子の質量は115GeV程度
- 多元宇宙(マルチバース)のいちばん簡単なバージョンだとヒッグス粒子の質量は140GeV程度
- でも見つかったヒッグス粒子の質量は125GeV
- いったいどっちなの?

SuMIRe計画の紹介と観測の説明

- 暗黒エネルギーが一定でなければ、真空のエネルギーではない
- それならばきっと対称性の勝ち
- どうやって証明する?
- 暗黒エネルギーの性質を精密に測る
- 同時に超対称性をLHC/ILCで探し続ける


このように観て楽しく、説明を聞いて素人でも理解できる講義があっという間に終わった。村山先生、わかりやすい講義をありがとうございました。


講演会の後は村山先生の著書の販売会とサイン会があった。どちらも盛況で長い列である。著書は4種類並べられていたが、僕が気になったのは最新刊。昨年12月に出たばかりの本だ。

宇宙を創る実験 (集英社新書)


その他の著書はこちらから検索していただきたい。

村山先生の紙の著書を: Amazonで検索

村山先生のKindle版書籍を: Amazonで検索


- オフ会

すべて終わって、いつものようにオフ会をするために近くの居酒屋へ向かった。もともと科学ブログ仲間の交流として生まれたグループだったが、今ではどちらかというと「朝日カルチャーセンター仲間」である。今回は7名参加でうち2名は新メンバーの女性2人だ。これまでは「オジサン飲み会」で盛り上がっていたのだが、盛り上がりがさらに加速したことはいうまでもない。「呑みのエネルギー」は増加する一方だった。


関連記事:

時空とは何か(朝日カルチャーセンター)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fc17a69807d62016bae8da7ea3af7e6c

宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/23059f2845a3ac3b84087a525eb00659


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6 コメント

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お疲れ様でした。 (N.Yokoyama)
2015-01-12 19:52:58
こんばんは、いつも詳しいレビューをありがとうございます。講座の復習にはとても役立っています(^^;)。
オフ会も楽しかったですね、またよろしくお願いします。
Re: お疲れ様でした。 (とね)
2015-01-12 20:49:12
N.Yokoyamaさん

こちらこそ楽しく過ごすことができました。次回また、よろしくお願いします。
チェック (hirota)
2015-01-13 12:58:40
- 美しさ vs 多元宇宙
 :
- 暗黒物質も宇宙体積の増加によって薄まる
- 暗黒物質は宇宙体積の増加によって薄まらない…
 ↑
 暗黒エネルギーでしょ?

宇宙の真空エネルギーを見積もると…
 ↑
「暗黒エネルギーの候補として宇宙の真空エネルギーを理論的に見積もると…」
としないと意味不明では?(大差ないかな?)

これでは宇宙は誕生後まもなく引き裂かれ…
 ↑
「加速膨張が速すぎる」という理由を書かなくていいの?
「引き裂かれ」の意味が「離散速度が光速を超えると完全に断絶する」という説明は?
Re: チェック (とね)
2015-01-13 17:19:27
hirotaさん
チェックいただき、ありがとうございます。

> 暗黒エネルギーでしょ?
タイプミスしました。そのとおりです。修正いたしました。

>「暗黒エネルギーの候補として宇宙の真空エネルギーを理論的に見積もると…」
> としないと意味不明では?
おっしゃるとおり、そのように修正したほうが正確です。修正させていただきました。

> 「加速膨張が速すぎる」という理由を書かなくていいの?
講座では理由の説明はありませんでした。

「引き裂かれ」の意味だけ追加しておきましたが、これで大丈夫でしょうか?
そういえば (hirota)
2015-01-13 19:32:53
「暗黒エネルギーは宇宙が加速膨張してる原因として名付けられたもの」ということは書いてないね。
たぶん、過去の記事にはあっただろうけど。
Re: そういえば (とね)
2015-01-13 23:40:00
hirotaさん

はい、講座では暗黒エネルギーや暗黒物質がどのような原因(理由)で名づけられたかは解説されませんでした。

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