【2572】 ○ 芥川 龍之介 「妙な話」―『芥川龍之介全集〈4〉』 (1987/01 ちくま文庫) 《妙な話」―『夜来の花』 (1921/03 新潮社)/妙な話」―『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』 (2013/12 彩図社)》 ★★★★

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オチもさることながら、一筋縄で片づけられない話になっているところが旨さ。

芥川龍之介全集〈4〉.jpg  文豪怪談傑作選 芥川龍之介集.jpg 『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』.jpg  『見た人の怪談集』.jpg
芥川龍之介全集〈4〉 (ちくま文庫)』('87年)『文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆 (ちくま文庫)』('10年)『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』('13年) 『見た人の怪談集 (河出文庫)』('16年)
[Kindle版] 「妙な話
妙な話jpg.jpg ある冬の夜、私は旧友の村上から、銀座のある珈琲店で、村上の妹である千枝子が夫の欧州出征中に神経衰弱のようになって語ったという"妙な話"を聞く。その話とは、見ず知らずの赤帽が、中央停車場で2度にわたり千枝子に夫のことで語りかけ、赤帽が夫の消息を訊ねてきたのに対し、千枝子が「最近手紙が来ない」と言うと、赤帽が夫の様子を見てこようと言ったというのだ。しかもその後再び出会ったとき、赤帽は本当に欧州の夫の消息を伝え、しかも、夫が帰還してみると、それが事実だったというのだ。更には、夫が語るには、その赤帽が、戦役でマルセイユに派遣されていた彼の前にまで現れたというものであった―。
    
芥川龍之介.bmp 芥川龍之介(1892-1927)が1921(大正10)年1月雑誌「現代」に発表し(執筆は大正9年12月)、『夜来の花』('21年/新潮社)に収められた文庫本で1「夜来の花」 芥川龍之介著.jpg0ページほどの短編です(ちくま文庫『芥川龍之介全集〈4〉』('87年)、ちくま文庫『文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆』('10年)に所収、アンソロジーでは、創元推理文庫『日本怪奇小説傑作集1』('05年)、彩図社『文豪たちが書いた 怖い名作短編』('13年)、新潮文庫『日本文学100年の名作第1巻1914-1923 夢見る部屋』('14年)、河出文庫『見た人の怪談集』('16年)などに所収)。

『夜来の花』(1921年/新潮社)

 途中までは夫想いの貞淑な妻の不思議なエピソードと思わせておいて、最後に思わぬ事実が―。語り手が物語の構成に一枚噛んでいたというのが、芥川龍之介らしい技巧のように思いました。まあ、こんなことがあれば、気味悪くて不倫する気にならないだろなあ。

 この「赤帽」は何者であったのか(または「何」であったのか)については、色々と議論があるようで、人ではない「物の怪」や「幽霊」、或いは「神」と言った霊的存在の類いとする説もあれば、赤帽に出会ったことで千枝子が不倫する一歩手前で踏みとどまったことから、彼女の潜在意識の中にある罪悪感が(当時、妻の不倫は「姦通罪」、つまり犯罪だった)彼女に見せた幻影であったという説もあるようです。

芥川龍之介全集 4.jpg 前者のスピリチュアルな解釈よりも、後者の潜在意識説の方がリアリティはありそうですが、となると、千枝子と赤帽の遣り取りは千枝子の潜在意識で背説明できるとしても、夫の自身がマルセイユで、欧州にはいないはずの赤帽を見たという事実はどう説明するか。「霊」を持ち出さなければ「テレパシー」か何かで説明せざるを得ず、"心霊"とまでは行かなくとも"超心理学"的な世界に踏み込むことになる...。

 語り手が作品のフレームであると共に絵の一部にもなっていることに加え、このように一筋縄で片づけられない話になっているところが、この作品の旨さだと思います。

芥川龍之介全集〈4〉 (ちくま文庫)』('87年)
所収作品
杜子春/捨児/影/お律と子等と/秋山図/山鴨/奇怪な再会/アグニの神/妙な話/奇遇/往生絵巻/母/好色/薮の中/俊寛/将軍/神神の微笑/トロッコ/報恩記

『夜来の花』...【1949年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
『日本怪奇小説傑作集1』.jpg●『日本怪奇小説傑作集1』('05年/創元推理文庫)
小泉八雲...「茶碗の中」/泉鏡花...「海異記」/夏目漱石...「蛇」―『永日小品』より/森鴎外...「蛇」/村山槐多...「悪魔の舌」/谷崎潤一郎...「人面疽」/大泉黒石...「黄夫人の手」/芥川龍之介...「妙な話」/内田百閒...「盡頭子」/田中貢太郎...「蟇の血」/室生犀星...「後の日の童子」/岡本綺堂...「木曾の旅人」/江戸川乱歩...「鏡地獄」/大佛次郎...「銀簪」/川端康成...「慰霊歌」/夢野久作...「難船小僧」/佐藤春夫...「化物屋敷」
   
『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』.jpg●『文豪たちが書いた 怖い名作短編集』('13年/彩図社)
夢野久作...「卵」/夏目漱石...「夢十夜」/江戸川乱歩...「押絵と旅する男」/小泉八雲/田部隆次訳...「屍に乗る男」「破約」/小川未明...「赤いろうそくと人魚」「過ぎた春の記憶」/久生十蘭...「昆虫図」「骨仏」/芥川龍之介...「妙な話/志賀直哉...「剃刀」/岡本綺堂...「蟹」/火野葦平...「紅皿」/内田百閒...「件」「冥途」
    
『日本文学100年の名作第1巻.jpg●『日本文学100年の名作第1巻1914-1923 夢見る部屋』('14年/新潮文庫)
荒畑寒村...「父親」/森鴎外...「寒山拾得」/佐藤春夫...「指紋」/谷崎潤一郎...「小さな王国」/宮地嘉六...「ある職工の手記」/芥川龍之介...「妙な話/内田百閒...「件」/長谷川如是閑...「象やの粂さん」/宇野浩二...「夢見る部屋」/稲垣足穂...「黄漠奇聞」/江戸川乱歩...「二銭銅貨」
   
『見た人の怪談集』.jpg●『見た人の怪談集』('16年/河出文庫)
岡本綺堂...「停車場の少女」/小泉八雲...「日本海に沿うて」/泉鏡花...「海異記」/森鴎外...「蛇」/田中貢太郎...「竃の中の顔」/芥川龍之介...「妙な話/永井荷風...「井戸の水」/平山蘆江...「大島怪談」/正宗白鳥...「幽霊」/佐藤春夫...「化物屋敷」/橘外男...「蒲団」/大佛次郎...「怪談」/豊島与志雄...「沼のほとり」/池田彌三郎...「異説田中河内介」/角田喜久雄...「沼垂の女」

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