ヘンデル

75年録音。デンオン初期のデジタル収録。スークのヴァイオリン、ズザナ・ルージイッチコヴァのチェンバロ。ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集です。かつてはグリュミオー、現在では寺神戸亮、ヒロ・クロサキといったピリオド楽器で耳にすることの多いソナタ集ですが、録音の点数は決して多くはありません。作品1。ヘンデルの校訂に携わったクリュザンダーの全集の第27巻。19世紀、作品を校閲的な立場で俯瞰し、すでに亡くなった作曲家の意思を尊重するという音楽学の草分けの偉業によるよるものです。ヴァイオリン・ソナタは、「ハープシコードあるいはバス・ヴァイオリン[チェロ]のための、通奏低音を伴う、ドイツ・フルート[フラウト・トラヴェルソ]、ヴァイオリン、あるいはオーボエのためのソロ、作品1」のうち、ヴァイオリンのための第3番、第10番、第12番、第13番、第14番、第15番の6曲を差します。当盤はその全曲を収録。演奏可能な楽器として複数の楽器を載せる例。作品1のうちではリコーダーで演奏されるものもあり、ロンドンでウォルシュがなしたものは実践性の高さと、こうした作品を演奏したいという需要に対応して出版したものでした。たとえば、ウォルシュが参照したアムステルダムのロジェ版では第14番、第15番は「ヘンデル氏のものではない」と記されており、当時の出版事情。この作品に限らず、混在することはあり、確証の高い証拠は得にくいところにあります。したがって、目録的に作品1を自身の出発的とするのちの作曲家の意味とは多いに違うところにあります。自筆草稿のあるのは5曲。うちト長調のものはクリュザンダー版にはないものです。ほか6番ト短調のオーボエ・ソナタ、第1番bのトラヴェルソ・ソナタがヴァイオリン・ソナタとしてあり、出版の際、必ずしもヘンデルの意思が反映していたわけではないようです。
 教会ソナタG.トレリ、A.コレリ創始の4章から成る音楽は緩急を繰り返し、緩やかな音楽のあとには必ず早い音楽がくる構成はヘンデル的な対比があり、目を引く部分が少なくありません。ニ長調のソナタはシゲティが愛奏し、マガロフのピアノで演奏したものがありました。バッハでの切り込み同様、バロックを演奏する若き日のシゲティ。音色もないがしろにはされず、極めて美しい。教会ソナタ自体はバロック的な展開ですが、楽器の違いや、真筆問わず審美に叶うものもあるのです。スークの同郷ルージイッチコヴァのチェンバロはモダンのゲオルク・ツァール。スークの楽器も1710年製の銘器ストラディヴァリウス「レスリー・テイト」で、これもモダンと古楽器的な世界の折衷ですが、モダン全盛にバッハのチェンバロ作品を全集として完結し大きい影響を与えたルージイッチコヴァを得て、何よりスークのヴァイオリンが人間的。ヘンデルの世界が大きく広がり、ここに、モダン、ピリオドの論議を持ち込む必要はありません。音楽の呼吸。それが作品に生命を与えていて、そこには楽器の性能を可能な限り引出すこと。その点、スークらしい呼吸が伸びやかにフレーズを紡ぎます。

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Josef Suk, Z. Ruzickova, Haendel Violin Sonata A major op.1No.3

J.Suk, Z.Ruzickova Haendel Sonata E op.1 no.15