「も~~~~なんでおれまで来なくちゃいけなかったの???」
真尋はスーツのネクタイが窮屈でたまらなかった。
「・・つべこべ言うな! おれだってなあ・・・なんで来なくちゃいけないのかわかんねーんだから!!」
同じくスーツが超苦手な斯波は
そういうことを平気で口にする子供っぽい真尋の言い様が非常に癇に障った。
この日は日本クラシック音楽協会の創立60周年記念パーティーだった。
北都フィルの責任者として斯波が
そして日本を代表するピアニストとして真尋も招待されていた。
パーティーなんかこの世からなくなってしまえばいいのに
いつもこういう場で斯波はそう思っていた。
本当にこういう人がたくさんいる華やかな場が苦手だった。
「ああ、斯波さん。 お久しぶりです、」
一人の男が斯波に声をかけた。
「ああ・・・平林さん、」
「お父さんのお加減はどうですか? 自宅で療養されてるってお話だったけど、」
「まあ、家でできる仕事をぼちぼちしているようです。 こういう場はちょっとまだ・・・・」
平林はM響の音楽ディレクターで、この業界が長い斯波とは顔見知りだった。
「ああ、今日は北都マサヒロさんも一緒ですか。 この前の北都フィルとのコンサート、良かったですねー。 行かせてもらいました、」
後ろにいた真尋に声をかけた。
「あ・・・ども、」
いつものように礼儀もへったくれもない態度で首をちょこっと前に出すだけの
まるで中学生のあいさつしかできない真尋に斯波はイラっとして陰で彼の尻を叩いた。
「いって・・・・。 んだよ、も~~~~~~。」
そこに
「ああ、斯波さんはもう面識あると思うけどー。 設楽啓輔さん。 今度、東京と大阪でコンサートやることになってて、」
平林は後ろに控えていた男を前に出した。
「ああ・・・・。 どうも、」
斯波はハッとした。
「・・・ごぶさた、してます。」
設楽は小さな声でそう言って会釈をした。
斯波はホクトに来る前にクラシック雑誌の編集者をしていた関係で、彼のことは何度か取材をしたことがある。
確か平林は彼がまだショパンコンクールで有名になる前にその才能にホレ込んで何度もM響と競演をさせていた。
「東京でのコンサートは行かせてもらいます。 日本は久しぶりでは?」
斯波はそう言った。
「そう、ですね。」
そっけなくそう言った設楽は斯波の隣にいた真尋に目をやった。
「え…? なんスか?」
真尋は視線だけ送ってリアクションなしの彼に不審げにそう言った。
「活躍のようだね。 『噂』だけ聞いてる。」
設楽が冷めたような顔でそう言うと
「や、それほどでも。 てか。 ・・・・どちらさん?」
真尋のその言葉でその場が固まった。
斯波は驚いて
「バカっ!!!」
慌てて真尋の口を押えた。
目がテンになっていた平林はその様子に思わず吹きだした。
「ほんと。 噂に違わず・・・・・浮世離れした人だ。 もう、その『才能』が服着て歩いてるって・・・・」
彼は笑い飛ばしたが
当の設楽はもうはらわたが煮えくり返らんばかりの表情で佇んでいた・・・・・
日本が誇る世界のピアニスト・設楽啓輔が登場します。 話は意外な方向に展開してゆきます…
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