「えっ・・絵梨沙・・」
真尋は飛び上がりそうになるほど驚いた。
志藤も同じようになっていた。
何も言葉を発せず
ただただ真尋をまんじりと見つめるだけの絵梨沙を見ると
どこまで今の話を聞いていたのか。
訊くまでもなく
わかってしまった。
「でも！ 怖がってないでちゃんとお母さんに本当のことを訊くべきだよ。」
ひなたは隅田川のほとりのテラスで奏と会っていた。
「・・・・」
奏は黙り込んで欄干につっぷすようにしていた。
「だから。 最初に高遠くん、あたしがまーくんの話した時、ちょっと驚いてたんだね。 まーくんに会わせてほしいって言ったのも。 ひょっとして自分のお父さんじゃないかって思ってたから・・」
ひなたはあのときのことを思いだしていた。
「・・ごめん、」
うつむいたまま奏はひなたに詫びた。
「それはいいんだけど。 でも・・そんなに悩んでるんだったらさあ。」
「お父さんとお母さんは結婚しなかった。 子供ができたってのに・・しなかった。 何でなのかって考えるだけで、おれが生まれてきて良かったのかってそればっかり思っちゃって、」
奏は複雑な胸の内をさらけ出した。
「え、ウチだってパパとママはデキ婚だったんだよ。」
ひなたは普通にそう言った。
「え？」
「なんかね。 つきあってもないのに。 あたしができちゃって。 何となくというか、よくわかんないんだけど結婚したって。」
あっけらかんと言う彼女に
「・・それ、ショックじゃなかったの？」
奏は食いついた。
「それは、別に。 ウチは理由はどうあれ、結婚して今も幸せなわけだし。 だってさあ、パパとママ、出会ってから4か月くらいでそうなっちゃったんだよ？ しかもつきあってなかったって、なにそれって感じで逆に笑っちゃった。 大人ってさあ、もっとしっかりしてると思ってたのに。 なんかウケるとか思って、」
その上、ひなたは笑い出してしまった。
「・・ポジティブだなあ、」
奏は自分が悩んでいたことも忘れてつられて笑いそうになった。
「でも。 パパとママは本当に心からあたしが生まれてくれて良かったって言ってくれてるし。 きっと高遠くんのお母さんだってそう思ってるよ。 だってさあ、前にママが言ってたんだけど、そうやって一人で子供産んで育てようって思うなんてよっぽどの覚悟じゃないとできないって。 たいへんなことだよ。 ひょっとしてウチの親だって、あたしのこと産まないって選択もあったかもしれない。 でもさ、こうして生み出してくれたし。 あたしはすっごくありがたいなって思うよ、」
そしてにっこりと笑いかけた。
「きっと大好きな人だったから。 高遠くんのお母さんは高遠くんを産んだんだと思う。 お父さんのことを話したくないのは、その人のことを恨んでるとかじゃなくて。 きっとわけがあるんじゃないかなあ、」
普段は直線的な考えで
学校の勉強も丸っきりできない彼女なのに
深くは考えていないのだろうが
本当に心に直接響いてくることを言う。
「なんか。 おなか空かない？ ファミレス行こうか。 ・・あー、お小遣い前であんまお金ないからー。 コンビニでなんか買おうか、」
かと思うといきなりこんなことを言いだして。
奏は何だかおかしくなって
思わず吹き出してしまった。
「え？ なに？ あたしなんか変なこと言った？」
訳が分からないひなたは肩で奏を小突いた。
「ほんっと。 おもしろいな。 ひなたは、」
「なんか意味わかんないんですけど、」
と言い返した後
あれ？
あたしのこと。
『ひなた』
って呼んだ？
そう気づいてまだ笑っている奏の横顔を見た。
明るくポジティブなひなたに悩む奏は救われますが、何となく二人の間が変わってきて…
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