April(14) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「・・ぼくは。 お母さんと・・生きていきたい。 お母さんが・・何て言っても、」


奏は声を張って設楽を見た。


「・・お母さんは。 何て言ったの、」


設楽はぽつりと言った。


「・・設楽さんのところに行きなさい、と。 ピアノがもっともっとできるように・・力になってもらうようにって。 自分では・・無理だからって、」


昨日母から言われた言葉を繰り返すだけで胸がいっぱいになる。


設楽は小さなため息をついた。


「・・ピアノ、あるよ。 弾いてく?」


そしてニッコリ笑った。


「え、」


突然そんなことを言われて戸惑う。


「けっこう。 いいピアノ、あるよ。」


と立ち上がった。



事務所スペースから隣の部屋へのドアを開けると


広い空間にグランドピアノがふたつ。


「わ・・」


奏は思わず駆け寄った。


北都邸にあったピアノも相当なものだったが、こちらもスゴかった。


「スタンウェイのヴィンテージと・・・こっちは日本のメーカーの人にオーダーで作ってもらったやつ。ぼく用にね。 ちょっとだけ深く入るようになってる。」


設楽はそのピアノの蓋を開けて、ぽーんと叩いた。


部屋もそれ用に造られているのか


響きがすごくいい。


共鳴しすぎず、適当に音を吸収しつつも奥行きがある。


「ヒライのコンクール・・本選は・・来月だよね。 予選の時はよどみなかったけど・・やや薄っぺらくなる部分もあった。 全体的にはすごくよくまとまってたから・・審査員の評も上がったと思う。 でも本選に出る子は・・みんなそれ以上の水準だからね。 ひとつひとつの音を大事にして、」


そして椅子を奏に勧めた。


別に弾くつもりもなかったのに、そのまま導かれて座ってしまった。


そしてハッとする


「え・・。 ひょっとして・・予選、見てくれたんですか。」


慌てて彼を見上げた。


設楽はそれには答えずニッコリ笑うだけだった。



信じられない・・



母はあんな風に言っていたけれど、設楽が自分にそんなに興味があるとは思っていなかった。


特にピアノに関しては、まさか会場に見に来てくれるほどの関心があるとも思えなかった。


奏はひとつ大きく息をついて指を鍵盤に落とす。


ベートーベン ピアノソナタ24番。


本選で弾く予定の曲。


ここ数カ月間、ずっと弾きこんできた。


自然に手がどんどんと動く。


ここが設楽啓輔の練習スタジオだということを忘れてしまうほどに。



いつも使っているピアノたちよりも


音が響く。


すごく鳴っている気がする。


確かに鍵盤は普通のピアノよりも少しだけ深く沈む気もするけれど、逆に弾きやすい。


いつもの自分の音じゃないみたいに響いて。


自分の音に酔ってしまいそうになるのなんか


初めてだった。



夢中で弾いてしまった。


弾き終わってようやく我に返った。


あ・・・


茫然と設楽の顔を見る。


彼は


何とも言えない穏やかな表情で自分を見つめていた。



奏の質問には答えず設楽は彼をピアノに導きます…



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