「ああ、いいのよ。 気にしないで、」
さくらは笑った。
翌日志藤は再び昼休みにさくらのもとを訪ねた。
さくらは大学の授業用の資料をまとめていた。
「ウチの親も久しぶりに若い子たちに来てもらって喜んでたし。 みんないい子にしてたしね、」
「そっか。 まあ・・下の娘が喜んでな。 今まで実家の京都くらいしか連れてったことがなかったから。 それだって調子のいい時しかいかれなかったし、」
「ななみちゃんはひなたちゃんよりも大人っぽくて。 なんか笑っちゃった。 どっちがお姉さんかわかんないくらいで、」
「学校も休みがちでひとりで本を読んでることが多かったし。 ウチの希望の星やねん、」
志藤は笑った。
「んで。 『あの二人』は別にお父さんが心配することはないみたいよ、」
さくらは資料をとんとんとテーブルの上で揃えながら言った。
「あ?」
「奏とひなたちゃん。 まあ・・ラブラブなんだろうけど。 でも。」
さくらはデスクの横に飾られたひなたからもらったフラワーボックスを見た。
「お互いのこと、すごく思いやってるし。 わきまえてるっていうか、」
「…今の子供は好奇心だけで先走るからな。 もう中3やし。」
志藤はまだ心配していた。
「そりゃ。 これからどうなるかはわかんないけど。 もっとつきあいが深くなっていくかもしれないし、・・大きな波がやってくるかもしれない。 いつまであんな風につきあってられるかも、わかんないけど。 でも。 あの子たちなりに真剣なんだなって・・思う、」
さくらの話に志藤は黙り込んでしまった。
「・・奏の。 演奏会の方はどやった?」
志藤は話を変えるように聞いてきた。
「うん。 よかったよ。 んで、もう若い女の子たちのファンがついちゃったりして。」
「え?」
「これから奏がもっと世に出て行ったら・・もっと女の子たちからキャーキャー言われちゃうかな。 ビジュアルでもきっと売り出せるよ、」
さくらは冗談めかして笑った。
そのあと、急に真面目な顔になって
「・・これから。 どうしていったらいいかなあってちょっと考えたりする、」
志藤を見た。
「これから・・」
「今は。 来年の受験に向けて、奏が藝高に受かるように指導していくことが最優先なんだけどー。 それと並行して、コンクールも考えなくちゃいけないかなとか、」
「うん・・」
「奏がどこの高校に行くことになったとしても。 その先も考えないといけないし、」
ぼくは、篠宮先生と世界に行きます
大我から聞いたあの言葉はさくらの何かを刺激した。
「奏は。 日本で終わらせたくないの。 あたしにどこまでの力があるのか。 いつまで奏を教えていられるのか・・わからないけど、」
さくらの思いが痛いほど伝わる。
「梓さんも設楽さんも。 奏のことは全てあたしに任せてくれるって言ってくれてるけど・・」
さくらは机の上のカレンダーを見た。
さくらもこの帰省で新たな思いを胸に抱いて・・
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