感情・・
さくらはその綺麗な字で書かれたメモをジッと見つめた。
彼のこれまでの道のりをひとつひとつ思い出す。
自分の感情を抑えきれず。
禁忌を犯した。
その後の彼の人生は幸せだっただろうけど
今、ひとりになってその時の自分を許せずに。
「まじめ、だない・・」
さくらは独り言を言ってふと微笑んだ。
なんだろ。
この寂しさは。
さくらは彼が作ってくれたおかゆをひとさじ口にした。
白米からコトコトと時間をかけて焚いたんだろう、という甘いお米の味がした。
それから5日。
「あれっ、来たの?」
瑠依はいつもさくらが大学に来ている日の午前中にいることが多い学内の日当たりのいいベンチで彼女を見かけた。
「ああ、もう良くなったから。 大丈夫。 まったく大人になってからやられるとなかなか回復しないよね。 情けないったら、」
「なんかやせちゃったんじゃない? ちゃんと栄養採ってんの?」
瑠依は隣に座った。
「平気平気。 ひとりはひとりなりにね。 死なないように頑張れるもんよ。 教室もずっと休んじゃって子供たちに迷惑かけちゃったし。 今日からまた始めるけど、」
さくらをじーっと見る瑠依に
「なに?」
怪訝そうに聞いた。
「ムダに明るくない? なんか。」
「は?」
「病み上がりにしては。 めっちゃスッキリしちゃって。 顔色いいし。」
「そお? ま。 もとがいいっていうか。」
さくらはふふっと笑った。
それにつられて瑠依も笑ってしまった。
「・・父さん、行ったろ?」
そしておもむろに聞いた。
「・・あ、うん。 夜間診療に連れてってもらった。 ホント、助かった、」
「奏はおれに連絡くれたんだけど。 ま、ここはオヤジかなって思っちゃって。 おれのこの気遣いをさ、あの人ほんっとわかってないってゆーか。 」
「・・そんなこと。 ないよ。 すごく・・いろんなこと考えられたし、」
「え?」
「彼の本当、というか。」
「ほんとう?」
「この年になって気づくことってあるんだなって。 そう思った。 さて。 授業の準備しなくちゃ。 じゃね、」
さくらは一方的にそう言って席を立ってしまった。
「・・ハア、」
瑠依はひとり残され所在なく頷くだけだった。
二人のじれったいだけの関係を瑠依は理解できませんが・・
ひなたと奏の出会いはこのへんから→★
奏が北都家に下宿するいきさつからさくらとの出会いはこのへんから→★
お話が長くなっております。よろしかったら読んでやってください・・
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