南風一の世界

　　　死の実感　　　　　南風一

毎土曜日に
母の入院する病院を訪ねていた
訪ねたからと言って何をするわけでもなく
ただ目を開けて呼吸をしていることを
確認して
ひ孫にあたる幼児と赤ちゃんの遊ぶ姿が写った写真や動画を
見せて「分かる？」と聞くことくらい

問いかけには「分かる」と返事があって
聞く方も安心する
そんなことを３０分から１時間くらい繰り返して
そそくさと病院を引き上げる

儀式のように繰り返していた行為が
出来なくなったことで
死というものを実感する

母は病院に行ったところで
もういない
ベッドの上で眠っていた姿はもうない
「来たよ、ハジメだよ」
と呼びかける対象者がいない

ただベッドの上で
寝ていただけに過ぎなかったのに

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