ロンドンはテムズ川の
水上バス乗り場に行こうとし
某商業ビルを通り抜けようとしたところ
見事に警備員に
止められたでござるの巻、続き。

これは建築中ではなくこれで完成状態


「失礼ですがおふたりはこれから
当ビル上階でご商談か何かで?」
「いえ、そうではありません」

「そうしますと、もしや
テムズ川の水上バス乗り場に
向かわれるところですか?」
「その通りです」

「当ビル上階のオフィスに勤務なさっている方、
およびビジネスで上階をご利用なさる方は
こちらの吹き抜けホールの
通り抜けが可能となっております。
が、それ以外の方は
通り抜けは不可となっているのです」
「なるほど。それは安全上の理由からですか」

「そうです。安全上の理由からです」
「わかりました。大変失礼しました。
水上バス乗り場へは他の道を探します」

私があっさり引き下がったことに
警備員さんは肩透かしを食らったのか
「あ、その、大変申し訳ありません」
「いえ、そんなことはないです。
ご時世を考えれば当然の措置です」

「ちなみに水上バス乗り場へは、
今入っていらしたゲートを一度出て、
すぐを左折、それから屋根つき回廊を
また左折しますと、川辺に出ます。
そこにまた案内が出ておりますから」
「ご丁寧にありがとうございます」

「いえ、では、よいご旅行を」
「あの、ただ1点質問があるのですが」

私の言葉に警備員さんは
ちらりと警戒の色を眼に浮かべ
それでも微笑みを維持しつつ
「はい、何ですか?」

「私たちがビジネス利用客じゃないと
どうしてすぐにおわかりになったんですか?
確かに彼(わが夫)はネクタイをしていませんが
それでもこの程度のカジュアルな崩し方は
ビジネスの席でも許されるかと思いますし、
また私もスニーカー履きではありますけど、
最近はこういう格好で出社する人も多いかと。
あれですかね、全身から怠惰な感じの、
こう、だらけた雰囲気
滲み出ていたんですかね、我々は?」

私としては素直な疑問だったのですが
警備員さんには予期せぬ質問だったらしく
「いや・・・その、服装・・・とかではなく・・・」

「するとやはり雰囲気ですか?
こいつは仕事をする気ゼロだ!みたいな
そんな直感が働く様子なんでしょうか、私は」

警備員さんはもう一度
私の頭からつま先まで
素早く視線を流し落とすと
「・・・いえ、ほら、それです!そのカメラ!」
「ああ!」

なるほど、カメラか!

「そうです、カメラをそうやって
首から下げていらっしゃる姿で
観光目的とご推察できたんです!」
「いや、よくわかりました、
確かにそうですね、
カメラを首から下げて仕事に来る人は
あまりいませんよね」

「ええ、そうです!」
「ありがとうございました、納得しました、
プロフェッショナルの眼力に感服しました!」

「いえいえ、そんな!」
「では本当にお手数を
おかけしました、ごきげんよう」

ゲートに戻りながら私は夫にこっそりと
「いや、彼はプロだな」
「そうですね、人当たりよく
責務をしっかり果たしていますよね」

「なあ、今度カメラを持たずに
私がここに来たらどうなるかな、
それでも彼は私を止めるかな?」
「その前に僕が君を止めます、
もう一度それをやったら
それは明らかに迷惑行為でしょ」

その通りですね。

というわけで、テムズ川沿いの
某商業ビルには
腕のいい警備員さんがいる、というお話でした。


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