前の所有者の思い出の残り香、
すなわち強烈な煙草臭
至る所に染みついた我らの新居。

まずはカーテンを洗濯に出し、
さあ、次なる相手は部屋の壁だ!

「あれ?よく考えたら私はこういうことに関して
基本的な知識が欠落しているのかもしれない。
壁はつまり『拭き掃除』をすればいいのか?
しかし『拭き掃除』で臭いは取れるものなのか?」

困惑する私にわが夫(英国人)は
「いえ、この場合は
壁のペンキを塗り替えましょう。
現在の壁の色より一段階ほど
明るい色を選択すれば
部屋の印象もかなり変わりますし」

「・・・ペンキを塗り替えたら
煙草臭はどうにかなるものなのか?」

「ええ、なるものなのです」

夫曰く、壁のペンキの塗り替えは
煙草臭に限らず『家の前の持ち主の
匂いを消す』手段として
一般的なものであるのだそうな。

「へえ、それは知らなかったな」

「でもこの場合、煙草のヤニが
かなり深く壁に浸透していますので、
まずは表面を洗いましょう」

そういうお掃除に際し
英国でよく使用されるのが
『シュガーソープ(Sugar Soap)』
という洗浄剤だそうで
「・・・私はこれ、今まで
聞いたこともない名前なんだが。
原材料がお砂糖
(シュガー)だったりするのか」

「まさかそんなことはないと思いますけど」

夫だけでなくペンキ屋さんや
街の掃除道具売り場の係の人も
「煙草の臭いを落とすならこれですね」
と薦めてくださいましたので、
洗浄力にはそれなりの
定評がある模様です、シュガーソープ。

粉末状のそれを指定された分量の
ぬるま湯で溶きまして、
その液体に洗車用スポンジを突っ込み
泡まみれになったスポンジで壁を拭く。

うわああああー!
白い壁から驚きの汚れが!」

元々の壁の色は『くすんだ白』系、
なのに何故かそこからおぞましい
茶色がねっとりとスポンジに付着してくる・・・!

しかもここがシュガーソープの底力、
内部で何がどうなっているのか、
スポンジで表面を拭ってしばらく経つと
じわじわとさらに汚れが壁に
浮かび上がってくるのでございます!

「うわあ、何だこれ!何だこれ!」

シュガーソープを溶いたぬるま湯は
元々無色だったはずなのに
気がつけばあっという間に
バケツの中は泥水色に。

しかしここで怯んではいけない、
バケツの泥水をいったん排水溝に流し
改めて今度はシュガーソープなしの
ぬるま湯を用意、そのぬるま湯と
スポンジを使ってもう一度壁を拭く!

すると数分前のシュガーソープ効果で
壁に浮かび上がっていた茶色のシミが
スポンジで拭い去られる!

「これは・・・すごいな」

「・・・すごいですね」

だが何ということでしょう、
ふき取り作業を終えた壁に
ふと目を戻すと、いったん汚れを
ふき取ったはずの壁に再び
ヌーン(注:効果音)と
茶色い滲みが浮かび上がってきている!

シュガーソープ君たら有能過ぎ!

しかし何かしら、
お掃除の醍醐味というのは
『目に見えて汚れが消え去っていく』
みたいなところにあるかと思うんですけど、
シュガーソープ君の能力って
それとはある意味真逆で
『目に見えない汚れを顕在化させていく』
みたいな感じなんでございます。

・・・そのぶん利用者の精神的疲弊は
激しい、というのが使用後の実感です。

「いや、でもこの作業は
やっておいてよかったよな」

「そうですね、この洗浄作業なしで
壁にペンキを塗った場合、絶対に
後からヤニの汚れが表面に
滲みだしてきていたでしょうからね」

「恐ろしいなあヤニ被害」

「でも真実何が恐ろしいって、
このお掃除をするまでこの家が
ここまで汚れていたということに
僕も君気が付かなかったって事実ですよ」

ええ、本当にそうですね・・・

しかし諸君、煙というのは
下から上に移動するものなのである。

つまり煙草臭の真の恐怖は
壁でなく天井に隠れていたのであった・・・

続く。


わが夫の叔母の一人が
数年前に家を購入した際は
このシュガーソープ作業を行わずに
壁のペンキを塗り替えたそうです

別にそれほど悪臭はしない家だったので
シュガーソープなしで大丈夫だろう、
という考えだったらしいのですが
「後日、新しいペンキの奥から
ヤニがじっとり表面に出てきてしまい」
非常にがっくりきたらしいです

というわけで、シュガーソープは大事らしい

結局この『シュガーソープ塗布、
拭き取り』作業、居間の壁に対し
我々は3回繰り返しました

いやーなかなかの労働量でした

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