放置たまご出身のガチョウのヒナを
親元へ返す決断を下した私と夫(英国人)。

『放置たまご出身』って日本語の
正誤については後日またの機会にして
ここまでの詳細は過去の記事をどうぞ。

さて。

そうと決めたからには
実行は早い方がいいでしょう、
だってほら、時間が経てば経つだけ
こちらの情も移るしニオイも移るし、
親たちだってヒナのことを
忘れちゃうかもしれないし。

いや、そもそも、親たちは
このヒナの存在さえ知らないのが
現実なわけでございまして
「この子を本当にちゃんと
親に受け入れてもらえるのかな。
受け入れ拒否だけならまだしも、
知らない個体が領域侵入!とばかりに
渾身の攻撃を仕掛けられたら
こんなちびっこ、ひとたまりもないぞ」

我々の心配をよそにヒナは
孵化から24時間後にはしっかり
己の足でそこらを
歩き回れるようになりまして
「これだけ動ければ、もう大丈夫でしょう。
大事なのは親の温かいお腹の下に
自力で潜り込めるかどうかですから。
それに万一の際も攻撃を避けて
親のくちばしの届かない距離に
走って逃げて行くこともできるでしょうし」

ところでこの子は
文字通りの箱入り育ち。

親との対面を果たす前に
まずは世間の風に慣れさせましょう、と
庭の芝の上に立たせてみました。

突然目の前に広がった緑の世界に
何故か目を伏せてしまうヒナ。

何これ


その気持ちは
わかるようなわからないような・・・

そのうち緊張も取れた様子で
ピープピープと
いつもの鳴き声をあげながら
草の上をぴょこぴょこ歩きはじめまして
その姿に我々も少しほっとしたところ、
庭の彼方から独身雄ガチョウ
通称『兄君』が雄叫びをあげながら
全速力で突進してまいりました。

てぇーい


どうやらヒナの鳴き声によって
何かの本能のスイッチが
入ってしまった模様。

頭を低くした完全戦闘態勢で
ヒナのそばまで距離を詰めた
彼の目に写った光景は
『無垢かつか弱き黄色いヒナと
その横に座り込む二足歩行生物
(親ガチョウの姿は近くに見えない)』。

攻撃姿勢


これを瞬時に
『邪悪な二足歩行生物に
拉致されたと思われる哀れなヒナ
(絶対に見過ごせない緊急事態)』
と理解したらしい兄君は
躊躇の色も見せずに夫に対して
渾身の威嚇音を発すると
全力でくちばしで突きを入れてきました。

兄君はこれまでも自分の恋人
(注:ゴミバケツ)を守ろうと
我々の手を噛んだり
つついたりすることはあったのですが、
そうした時とは本気の度合いが
まったく異なる凶暴さ。

王蟲だったら目が真っ赤になって
もう蟲笛も光弾も効かない状態。

同時に兄君の全身、特に脚は
これもまた今まで見たことがないほど
ガクガクと震えていまして
「・・・僕たちのことが現在の彼には
そんなに恐ろしく見えているんですかね?」

「汚れなき幼子をどこからか誘拐し
ヘラヘラと笑っているような連中が
常識に照らし合わせて考えて
怖いか怖くないか、という話だからな。
故ロバート・K・レスラー氏の
判断を待つまでもなく
我々は相当な危険性を内包している
犯罪者二人組、という立場になると思うぞ」

「しかも彼に比べて僕たちは
身の丈が2倍、3倍はありますしねえ」

皆様もご想像ください、
ある晴れた昼下がり、道の向こうから
耳慣れぬ子供の声がしたので覗いてみると
身長4メートル強の宇宙人二人組が
どこかよその知らない子の手を握って
ふがふがへぼへぼと笑いあっている。

そこで貴方は勇気をもって
宇宙人に対して
その子供の手を放すよう談判できるか。

下手をしたら自分がそのまま遠い星に
連れ去られてしまうかもしれないのに。

それどころか、その場で宇宙人に
息の根を止められてしまう
可能性すらあるというのに。

そう考えるとこの兄君の行動は
どれだけ貴いものであることか・・・!

追撃姿勢


「見ず知らずの子供に対する
この献身と犠牲的精神。
兄君は本当に素晴らしい資質を備えた
ガチョウの中のガチョウですね」

「恐怖と勇気をはかりにかけて
命をかけて勇気を選んだ
真の男気だものな、これは」

我々の賞賛が続く間も
兄君は攻撃の手、というか、
攻撃のくちばしを休めず、
同時にヒナに対して何度も
二足歩行生物から離れて
自分のそばに来るよう
身振りで伝えようとしたのですが
・・・放置たまご出身・箱入り育ちのヒナには
そんな兄君の決死の訴えが理解できず。

むしろ何度目かの兄君の捨て身の突撃に
ヒナは恐怖の叫びをあげると
「イヤ!助けて!」とばかりに
わが夫の足に身を摺り寄せました。

その姿を見て逆上する兄君。

そりゃそうです、化け物鯨から
アンドロメダを救出しようと
頑張っているペルセウスに対して
当のアンドロメダが悪態を
ついたようなものですから、これ。

自分は何のために、誰のために
己の実を危険にさらして
戦っているというのか。

混乱した兄君はつい
庇護の対象であるべきヒナに
そのくちばしを向けようとしました。

次の瞬間、兄君の横っ面を
平手ではたいたわが夫。

うん・・・

だってヒナのことは守らないとね・・・

色々な意味でそりゃないでしょ!と
芝生の上に呆然と立ち尽くす兄君。

それはないよね


そしてそんな兄君に背を向けて
夫の横腹に顔を押し付け
「この白くて大きくて凶暴な
変な生き物から僕をちゃんと守ってね」
という意思を示すか弱きヒナ。

あのひと、キライ


兄君・・・

君って・・・つくづく報われないな・・・

というわけで、ヒナ君と
兄君との初顔合わせは
散々な結果となったのでした。

続く。


兄君もね、ちょっとね、
怖すぎたっていうかね・・・

彼は本当にいい男なのにね・・・
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