ところでわが夫(英国人)の母、

すなわちわが義母は

話を聞くに割と王道のお嬢様育ちで、

独身時代はそのお父上

(わが夫にとっての祖父)が

周到にお目付け役を兼ねた恋人候補

(非の打ちどころのない好男子)を手配し

まさに盤石の箱入り娘として

美しく成人したところでついうっかり

わが夫の父(つまりわが義父)

(一言で形容すれば白色シュレック)と恋に落ち

結婚してしまった経歴の持ち主。

 

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わが義父は現在でこそ

それなりに成功しているご様子ですが

当時は学校を卒業したばかり、

新婚生活は極貧とまではいかないものの

割と清貧というか余裕はなかったというか

そんな感じの毎日であったらしいです。

 

それでもそこに赤子(後のわが夫)が生まれ、

子どもはすくすくと元気に育ち、気がつけば外で

一人遊びが出来る程度には大きくなり、

そんなある日、わが義母の

学生時代の友人が家を訪ねてきたそうな。

 

ご友人は非常にお洒落な方で

そのままロンドンのパーティーに出ても

恥ずかしくないくらいの

隙のないファッションに身を包んでいて、

これまた同じくらい粋に着飾らせた

当時のわが夫と同い年くらいの

娘さんの手を引いていたとのこと。

 

噂によればわが義母も

学生時代はそれなりに

お洒落好きであったらしいです。

 

(『まさかうちの姉がここまで服飾に

無頓着になるとは想像しなかった』

と義母の妹さんが言っていたことがある)

 

(しかしいざという時は義母は今も見事に

身なりを整えることができる、

『昔取った杵柄』とはこういうことでしょうか)

 

が、その頃はお洒落よりも

日々の生活が第一というか

(何か新党の名前みたい)

お洒落以上に

楽しいことを見つけてしまったというか

義母はたぶんそんな感じで、

そんな義母の新しいスタイルに

ご友人は戸惑いつつも

娘と一緒に美しい姿勢でソファに座り

洗練された仕草でお茶など飲んでいたらしい。

 

そこで話はお互いの子育てのことになり

「貴方のお嬢ちゃま、とても可愛くて

礼儀正しいわね、お利口さんね」

「ウフフ、ありがとう、

お宅は息子さんだったわよね?

きっとハンサムで頭のいい子なんでしょうね、

ご挨拶したいわ、どちらにいらっしゃるの?」

 

そこに義母曰く

『狙っていたかのようなタイミングで』

わが夫がドアを開けて登場。

 

夫は救世軍払い下げの古着とはいえ

しっかり洗濯されアイロンをかけられ

ボタンも全部ついた服を着ていて、

足にはちゃんと靴を履いていて、

髪は多少乱れてはいたものの

そして顔のあちこちに

泥がついてはいたものの

目には歓喜のきらめきがあり、

それはもう絵に描いたような

『元気な田舎の英国少年』的

ある種非常に好ましい風貌をしていて、

義母は少しほっとしながら(ここで安堵した

義母の気持ちが私にはよくわかります)

「紹介するわ、この子が私の息子よ」

 

そしてそこで義母は夫が上着のポケットに

両手を突っ込んだままなことに気付き

「あら、お客様にご挨拶する時は

ちゃんと両手をポッケから出しなさい」

 

その言葉に夫は一層目を輝かせ、

まっすぐ正面を見詰めたまま大きな声で

「僕のポッケね、ミミズでいっぱい!

(イーン・マーイ・ポケット、

フル・オブ・ワームス!、

In my pocket, full of worms!)」

 

そう、夫はその日お外でずっと

ミミズを捕まえてはポケットに入れ、

ミミズを捕まえてはポケットに入れ、

という楽しい遊戯

夢中になっていたのでございます。

 

夫がポケットに手を突っ込んでいたのは

そこからミミズが零れ落ちそうに

なっていたからだそうでございます。

 

夫の堂々の大漁宣言を

正面から受け止めてしまった

美しいご友人は

すうっと顔色を青ざめさせ

同じく衝撃に口を開け頬を白くした

美しい娘さんの手から

優雅な動きで茶器を取り上げると

凛とした揺るがぬ口調で

「私たち、お暇させていただくわ」

 

そのご友人は以来義母とは

没交渉になってしまったそうでございます・・・

 

この話を『楽しい小噺』として

持ちネタにしている義母を

私は心から尊敬しております。

 

なお夫はこの一連の出来事を

まったく覚えていないそうなのですが

「でも子供の頃の僕って

足元にはアヒル、手にはナメクジ、

ポケットにはミミズと、あれですね、

まるで『ナウシカ』みたいですよね」

 

 

 

 

謝れ!お前は!

 

世界の『ナウシカ』ファンに謝罪しろ!

 

 

しかしその後、夫のミミズポケットを

義母はどう始末したのかしら・・・

 

腕白な少年を育てていらっしゃる

世の母にとってはこんなこと日常茶飯事、

想定の範囲内、

恐るるに足らずな出来事なのかしら・・・

 

「しかし何故ミミズなんだよ」

私の言葉に夫は不思議そうに

「だってミミズは皆好きでしょう?」

 

夫は今でもミミズが好きだそうでございます

 

ここで「だから何でだよ!」と聞きたい貴方、

止めておいた方がいい、私はそれで

ミミズの体のデザインの機能性の高さ、

自然界でミミズの果たす偉大なる役割を

延々と聞かされ、土に還りそうになったです

 

世界はミミズによって

持続しているのだそうでございますよ

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