秋ということでただでさえ

気持ちが滅入りかけている私に

止めの一撃が入りました・・・

 

夫(英国人)が仕事に出かけた後

寝室に掃除機をかけていたら

床に奇妙な輝きがありました。

 

顔を近づけてよく見てみると

床に何か液体がこぼれたような跡があり

それが水玉状ではなく

カーペットの上に線が引かれたように、

あたかも何かの軌跡のように伸びている。

 

不思議曲線は床の途中で

ところどころ途絶えながらも

子供がチョークで遊んだあとのように

床のあちこちにきらめきを残している。

 

指でつつくとこれが高級化粧品のように

ジェル状というか粘液状で、無臭。

 

・・・何かしら、これ。

 

夜のうちに何かをこぼしたかしら。

 

それとも雨漏りの結果かしら。

 

しかし天井を見上げても

特に変わった様子はない。

 

最近夜の冷え込みが厳しいから

その影響でカーペットの裏に使われた

接着剤が浮き上がってきちゃったり

しているのかしら(こういう発想が

さらっと出てくる自分が不憫でならない)。

 

もしそうなら夫に伝えないと、と、

私はとりあえずその謎の液体を

紙でふき取り、掃除機をかけ続けました。

 

その夜。

 

「夫よ、今日の午前中に寝室を

掃除していたらな、床に変な

ジェル状の液体がついていたんだよ。

こう、線を引いたみたいに。

あれは何なのかな、同じようなことが

続くなら、カーペットを剥して

その裏を見てみるべきなのかな」

 

私の言葉に夫は動きを止めて

「・・・その液体、どこで見かけました?

僕はちゃんと拭いたつもりだったんですけど」

 

「寝室の戸棚の前だよ。

あれ、何、ちゃんと拭いたつもりって

じゃあやっぱり君が何かこぼしたの?

でもあれは何なんだ?するするして

すごく手触りというか滑りが良く無臭で、

何だろう、薬?それとも建築材の一種?」

 

笑顔で質問した私の顔をじっと見つめた後

夫は観念したように

「僕がこぼしたんじゃありません。

今朝・・・僕は君より先にベッドを出たでしょ、

その時にあの床の状態に気づいたんです」

 

「あら、じゃあ夜の間に何かあったのか。

何があったんだろう、

君に心当たりのようなものはあるか

・・・いや、何故そこで目を逸らすんだ?

別に私は君を責めてはいないぞ」

 

夫は私から目を逸らしたまま

「今朝僕が気づいたのは粘液ではなく

カーペットの中央で疲れ果て

縮こまっている灰色の軟体動物で・・・」

 

「おおい!それはつまりナメーか!

ナメーが・・・ナメーが家屋侵入・・・

そ、それも寝室に!というか待て、

我々の寝室は2階にあるんだぞ!

何故!どうやってそんなところに!

いやそれ以前にナメーがいた、ということは

つまりあの粘液は・・・あれは・・・」

 

「カーペットはあの闖入者にとって

過酷な環境だったんでしょうね。

断末魔の苦しみを示すかのように

彼の前後にはこれでもかと・・・」

 

「私はな!あの粘液な!触ってしまったんだぞ!

そして匂いまで嗅いでしまったんだぞ!」

 

「すみませんでした、ナメー周辺の

ぬめりは拭き取ったつもりだったんですが

・・・拭き残しがあったんですね」

 

「そ、それでそのナメーはどうした!

寝室のくずかごに捨てた、とかいうオチだったら

私はもう1オクターブ高い声を出し始めるぞ!」

 

「安心してください、無作法にも我々の

寝室に忍び込むようなナメーに情けは無用

ティッシュに包んで

ストーブの中に入れておきました」

 

「・・・そういえば朝、ストーブの戸を開けたら

中央にティッシュが丸めて置いてあったような・・・

おい、あのな、火をつけるために私が

そのティッシュを触ってしまう可能性については

考えなかったのか、君は、夫として」

 

「ティッシュくらいいいでしょ、

君は粘液に直触りしたんですから」

 

「まあそれもそうか・・・と私がそこで

納得すると思っているのか!

2オクターブ高い声を出してやる!

というか何故君はそこで、朝の時点で

私にその悲劇の惨状を報告しなかった!」

 

「だって僕が真実を告げたら、君は今みたいに

叫び始めて収拾がしばらくつかなくなったでしょ?

僕は仕事に遅れるわけにはいきませんでしたし」

 

・・・夫の判断はある意味正しかったと

私も同意しないではないのですが、

しかし、しかしだ・・・!

 

本日の豆知識:

ナメーの粘液は無臭

 

ここに『無味』とか書くことに

ならなくて本当によかった、と

自分を慰めたいと思います。

 

 

侵入経路なのですが、

これは窓なのではないかと

 

「寝室はちょっと涼しいくらいがいい」と

主張する夫のため、部屋の窓を1つだけ

細めに開けて就寝していた我々

 

この事件以来すべての寝室の窓は

天岩戸のごくきっちりと閉められております

 

しかしナメーめ、やつら

垂直方向への移動も可能なのか

 

・・・ベッドに登ってこなくてよかった、と

物事の素敵な側面を

無理やりにでも眺めようとする私に

ポジティブ・シンキングは大事ですよね、

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