我が家は周囲を

牧草地に囲まれており

牛や羊などの家畜好きの方には

まさにたまらない立地。

 

さて、この家に引っ越してきた当初、

牧畜業に従事していらっしゃる隣人各位から

私は次のような質問をよく受けました。

 

「君は犬を飼うつもり?」

 

私の答えは以下の通り。

 

「犬を飼うことは私の長年の夢でしたし

ここは犬を飼うには理想の環境なので

是非1頭手元に置きたいとは思うのですが、

我が家には先住猫が2匹いますし、

猫の気持ちを考えるとしばらくの間は

犬のいない生活を送ろうかと思っています」

 

 

私の言葉を聞いた

近所の羊飼いや牛飼いの皆様は

一様に安堵の表情を浮かべ

「そう!それはよかった!」

 

・・・いや、「それはよかった」って

どういう意味なの、と

当初は理解が及ばなかった私ですが、

田舎暮らしの経験を積むにつれ

その言葉の真意が見えてきました。

 

犬を飼ったことのある皆様は

実感としておわかりかと思うのですが、

犬ってどれだけきちんと飼育・管理していても

何かの拍子に『脱走』する危険性を

常に秘めている存在ではないですか。

生き物であるだけに『絶対』はない、という。

 

都会で犬が逃げてしまったら

それは大騒動ですが

田舎には田舎の悲劇の可能性がある。

 

最近私がとある羊飼いから聞いたのは、

数年前の冬に彼が出産を控えた雌羊を

大きめの囲いにひとまとめにしておいたところ、

ある朝そこに犬が2頭入り込み、興奮して

羊たちを追いまわしたという話。

 

犬たちは数日にわたって現れ、

結果、その冬には20頭以上の雌羊が

死んでしまったそうです。

 

「それは犬が羊を噛み殺してしまったのですか」

 

「それもあるし、羊は身重の状態だったから

そんな風に突然驚かされたり走らされたりは

流産や早産を引き起こす原因になるんだ。

まだまだ寒い時期だったしさ、生まれた仔羊は

体が出来ていないから絶対に助からないし、

母羊もね・・・延命には務めたけど駄目だった」

 

つまり『死んだ羊』として数えられた頭数の

倍以上が実際には犠牲になったということ。

 

それだけでもひどい話なのに、

数日経って彼と近所の牧畜業者が

協力してその2頭の犬を捕まえたところ、

その犬には首輪と名札がついていて、

その飼い主はなんと

羊飼い氏の友人であったそうな。

 

羊飼い氏は犬を連れてその友人の家を訪ねると

犬と羊の間に何が起きたかを説明し

「申し訳ないけれども、君には死んだ羊の

補償を後日お願いすることになると思う」

 

「えっ・・・でも悪意のない犬のやったことだし」

 

「でも、数が数だから」

 

羊飼い氏が請求書を作り

後日改めてその犬の飼い主宅に行くと

犬の飼い主は非常に不機嫌そうに

「あの犬はもう殺処分しました!

よくこんなひどいことをさせるよね!

これで『おあいこ』でしょ!請求されても

こっちはそんなお金、払いませんから!」

 

事態には結局司法も介入することとなり

羊飼い氏の手元には

賠償金が振り込まれたのだそうですが

「僕は20頭の羊と同時に友人を1人失ったよ。

でもね、僕が一番悲しいのはね、

あの犬が処分されてしまったことなんだ」

 

犬の飼い主が何故連日問題の犬2頭を

羊の囲いに放していたかは謎なのですが、

たぶん、飼い主は自分の犬が

よその羊を追いまわすとは想像もせずに

「田舎なんだし大丈夫でしょ」みたいな甘い認識

犬を自由に『散歩』に出していたのではないかと。

 

しかし犬には狩猟本能があるわけです。

 

田舎に住む良識ある犬の飼い主は

当然そこら辺のことをよく理解しており

我が家の近所(車で30分の距離)に住む

某隣人宅には大型犬が

複数頭飼われているのですが、

その犬がふと庭から姿を消したりすると

飼い主は即座に近隣の家に電話を入れ

「うちの犬の姿を見たらすぐ連絡して!

それと可能なら犬の名前を呼んで保護して!

ごめんなさい、本当にごめん、でもお願い!」

 

(多くの場合彼女の犬は

彼女の家の物置で発見される)

 

犬は可愛い。

 

それが自分の犬ともなれば

飼い主の欲目で実際以上に可愛いものと思われる。

 

しかし自分にとっては可愛いだけの存在でも

犬には牙と脚力と好奇心があり

時にはそれが重大な事件や事故につながる。

 

その潜在的危険性を理解できないうちは

犬を飼わないほうが世のため人のため犬のため。

 

そういうことなのではないかと思うのです。

 

 

雌羊20頭を駄目にした犬2頭、

これ、悪いのは犬じゃなくて飼い主であることは

これ以上ないほどに明白なのですが、

飼い主の「犬に悪意はなかった」発言も

また真実であったことを思うと本当に胸が痛い

 

そりゃ犬には悪意はなかったでしょうよ

 

犬は羊を追いかけて楽しかったでしょうよ

 

でもね、それは飼い主が責任を持って

止めるべきというか

させてはいけない行為なのよ

 

近くに羊や家畜のいる地域では

犬には常に引き綱を!

 

良識ある犬飼の皆様、

愛犬の躾と管理、お疲れ様です

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