休日も仕事に追われている
可哀そうな近頃のわが夫(英国人)。
 
配偶者として当然ここは常に
背の君を支える姿勢で臨みたいところ、
日曜日の夕食の後に夫がぽつりと
「今日はもう30分くらい頑張れば
その後は休憩に入れそうです」
 
「そうか、よかったな」
 
「それで提案なんですけど、
今夜は一緒に何かDVDを観ませんか」
 
「いいよ。でも手持ちの
『ビッグ・バン・セオリー』は全部
観終わっちゃったところだよな」
 
「ええ。で、僕は思い出したんですけど
数年前に君にプレゼントされた
あれ、まだ観ていないのが
何本もあるでしょう。今夜は久々に
イーストウッドを観ませんか」
イーストウッドは俳優としても監督としても
非常に優れた才能の持ち主であると
私も心から思います、でも何故かしら、
私は彼の作品を観たくて観たくて
たまらない、と思うことがあまりなく・・・
 
別に面白くない訳じゃないんですけど・・・
 
演技も演出もとても
上手いお人だとは思うんですけど・・・
 
「・・・イーストウッドか」
 
「久しぶりですよね。どれを観たいですか?
西部劇?アクション?もっと最近の?」
 
「・・・もう何でもいいよ」
 
「そうですよね。クリントの映画は
どれも間違いなく面白いですもんね」
 
そういうことじゃないんですけど、
まあ夫の気持ちがこれで少しでも
上向きになってくれるなら、はい。
 
というわけで久々のイーストウッド作品は
『Honkytonk Man(ホンキートンク・マン、
邦題:センチメンタル・アドベンチャー)』。
 
カテゴリーでいうと
たぶん『ロード・ムービー』。
 
これといったアクションも緻密なプロットもなく
・・・実際これ、ストーリーは結構雑というか
大雑把なシナリオをクリントが
力技でまとめたというか、
場面場面は悪くないんですけど
『過剰演出を排した』出来上がりを目指して
『説明不足』に片足を突っ込んじゃったというか、
「何故その伏線を回収しない!」
「どうして前もって伏線を張っておかない!」と
画面を見ながら私が何度心の中で叫んだことか。
 
世のイーストウッド崇拝者には
申し訳ないんですけど、これ、
観ようによってはB級映画ですよね?
 
まあクリントは相変わらずクリント全開、
この人は本当に自分の魅力の演出の仕方を
よく心得ていらっしゃると思います。
 
映画を観終わった夫の感想
「いやあ、いい映画でしたね。
2時間を視聴に費やして
悔いなし、とはこのことですね」
 
・・・そうですか?
 
「まあ君が楽しかったならよかった」
 
「僕はすごく楽しかったです、けど、
これ、今この映画を撮ろうと思ったら
いくつかの場面はカット必至でしょうね」
 
「ああ、わかるわかる。あの黒人歌手が
クリントに向かって
『顔に靴墨をつけて・・・』とか言うセリフは
今のハリウッドなら脚本段階でアウトだよな」
 
「・・・そう言われたらそうかもしれませんね」
 
「おや、君の言う『カット必至の場面』は
他にあったか。どこだ」
 
「クリントの甥っ子が13、4の設定でしょ?
そんな子が娼館に連れて行かれて
娼婦に夜の手ほどきを受けるあの場面、
あれは現在の倫理基準からすると・・・」
 
「駄目だな。絶対に駄目だな」
 
「あとクリントも自称17歳の女の子と
一夜を共にしちゃいますけど、あの女の子も
『実はもっと年若い』設定でしょ?」
 
「なるほどなあ、ちょっとギリギリだなあ」
 
ただそんなことを細かく言い出したら
日本が世界に誇る古典名作『源氏物語』も
あちこち黒塗りされてしまいますし、
物語が設定されていた年代では
「その年でそういう場所で
そういうことをしても変じゃない」と
一部の人は考えていた、ということを踏まえますと
そこを変に改ざんしてしまうのも罪ですし、
こういうのは難しい問題ですね。
 
それにしてもイーストウッドの映画で
私が毎回舌を巻くのは
準主役級の女優の選び方で、
イーストウッドさんったら毎回
「・・・ねえ、オーディションにはもっと
華があって目鼻の整った人も来たでしょ」
という女性をスクリーンに出すんですよ。
 
で、そういう女優の演じるキャラクターが
毎回どことなく奇天烈というか
一筋縄ではいかない性格設定なんですよ。
 
でも不思議なことに映画の
エンドロールが流れる頃には観客は
「あの役はすごく魅力的だったねえ」
みたいな気分になっている、
クリントさんは本当に凄腕なんでございます。
 
そんなわけで
『センチメンタル・アドベンチャー』、
テレビ東京がお昼の映画番組で
流してくれたらこれは必見。
 
そういう時間帯の放映が
非常に似合う作品だと
私は思うわけでございます。
 
 
しかしこの邦題は何事か
 
 
まあセンチメンタルだけど
 
アドベンチャーかもしれないけど
 
なおこの映画で一番大事なのは音楽
 
・・・DVDを再生したPCの
オーディオの調子がよくなかったため
私は今回そこのところを正確に
評価できていないと思います
 
(ひどい)
 
音さえよかったら
A級ムービーかもしれんです
 
ところでクリントのあの歌声は
ご本人の声なの?
 
前半はともかく後半の
舞台オーディションの場面は
吹き替えが入っていた気もするんですけど
 
あ、でも少なくとも
ピアノは自分で弾いていらした模様
 
イーストウッドは本当に多才だ
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