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「汚れた天使」
時を消そうと鏡の中に
顧みる思い出を紡いで
天使の翼を織り成して
時折とまる糸車を回し
絡まる心を解きながら
涙で布をなめしてゆく
こんな不器用な私でも
いつか必ず織りあがる
鏡の向こう呟いている
幸福の空はいつの日も
ここに広がってるから
鏡のむこうに扉がある
私の心を織りあげ結び
戸惑う指先の赤い血で
紅色の翼を造りあげる
汚れて出来る天使の翼
鏡の向こう私の夢でも
いつか貴方の空を舞う
2015・5・29
自由詩人 松尾多聞
※ 紅色:くれないいろ
今日は書籍に掲載された僕の経験を。
嗚呼、人間達よ。人を司どる心のカムイよ。人を元へ戻したまへ。永遠を今一度我れらと共有できるほどの愛を注ぎたまへ。愛よ我らが創造よ。人々を助けたまへ。
もしも人が比べないならば、もしも人が求めないならば、もしも人が人のカムイと同じならば。愛はここにあることを知りたまえ。
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カマキリは卵を秋に多年草の茎などに産み付けるのですが、カマキリに選ばれたその茎は豪雪にも決して倒れず、また、その
産み付けられる高さは積雪よりも
ほんの少し高い場所にあり、卵が雪に触れることはないのです。そう、カマキリは自分が死んだ後の積雪や地域環境を予測して産卵することが知られています。
私が「ナナカマド」について研究を始めたのは2000年の6月からでした。ナナカマドの実は初夏である6月に結実するのですが、翌年の2月まで内在する
ソルビン酸という保存成分のおかげで瑞々しく木に実っています。冬の終わりにその実を食べて鳥たちは命をつなぎます。そう、今年のように豪雪で雪解けが遅くなる年に
は、初夏からの実りが違うのです。逆に、ナナカマドの実が少ないならば、その冬は少雪となることが分かってきたのです。
※この年、予言は的中し数々の建物が豪雪により崩壊。
関連記事:ナナカマド「人生の選択」 】 淮南子 」より。 多聞のエッセイ
2001年1月から2月まで私は札幌のランドマークである手稲山で観察を続けていました。キツネ、タヌキ、エゾモモンガ、エゾシカ、ヒグマ、テンにイタ
チ。ここは原生林がそのまま残る野生の宝庫でもあります。その裾野の一番標高が高い位置にある住宅街に車を停めました。ゴミステーションの横から始まる原
生林にナナカマドは赤い実をたわわに実らせていました。
しかし、不思議なことが起きました。ゴミステーションにおいて、水曜日の燃えないゴミの日にのみ、出されたゴミ袋の一部が破られていて、そこから足跡が 山に続いているのです。しかもそれが毎週なのです。
鳥? キツネ? 私も北海道の、しかも山を愛する人間です。野生動物の足跡は一見しただけで、その種類
を判断できますが、この小さな足跡だけは何度見ても判断することなどできませんでした。なぜかと言えば、それはまさに人間の足跡なのです。雪の沈み具合か
らいうと、その体重はネズミかウサギ程度のものだとも判断できました。まったくの人間の足跡なのですが、その大きさは私たちの指の第一関節までの長さ。二
センチにも満たないものでした。そしてゴミステーションを調べてみると、彼らが持ち帰っているものは、全てが″布″であることが分かり、一部が切り取られ
ていることもありました。
思えば昔、タケノコ採りに行ってニセコの山中に一人遭難した時も、雪山で方向が分からなくなって死にそうになった時も、聴いたこともないような美しい歌
声が風に流れてきて、その方向に歩きだして助かった経験が甦りました。姿を決して現さない、あの歌声の人々が浮かんできました。私は日を置いて山に戻り、
同じ水曜日に足跡を追跡してみることにしました。
「あいつらは不思議な力を持っている。音の無い言葉を話し、水や食べ物の場所を教えてくれる。やつらはカムイ(この世界の生命体)と通じておるんじゃ」
――
もう二十七年も昔のこと。原生林での出来事でした。日高の防災ダムである沙流川流域の二風谷ダム建設予定地で地質調査を行っていた私は、木こりを生業 にしているアイヌの人々に出逢ったのですが、その長老が話してくれたニングルの姿を思い出したのです。
2001年2月の中旬だと思います。とても青空が鮮やかな朝に私はその場所へ赴きました。案の定、その場所には点々と足跡があります。「よし!」その足
跡を胸の高鳴りを抑えながら追ったのです。森に足を踏み入れ膝まで雪に埋もれながらも、大きなクリの木へ足跡が続いている場所まで到着しました。木の周り
の雪の窪みへ足跡は降りていったようです。「驚かせてはいけない」私が慎重に眺めていると、あの日の歌声が風のように微かに流れてきました。たしかに経験
したことのある歌声が遠くから聞こえる気がするのです。周りを見渡して、歌声の主たちを探すのですが、空全体から聞こえてくるような不思議さを感じていま
した。そして、あの木の根元に目を移した時でした。彼が両手を広げて立ちはだかるように立っていたのです。彼と私の距離は目測で5メートルくらいでしょう
か。長く黒い立派な髭をたくわえて膝まである麻のような服を着た、とても小さな男性でした。
目を見開き私を見つめる小人。二十センチもない身長。頭にはターバンのようなものを巻いています。私は驚きと感動で身体が固まったような状態でいました。すると、立ちはだかった彼の後ろから白く長い髭をたくわえた老齢で威厳のある男がゆっくりと現れました。
「人間が私たちを見つけるのは珍しいことだ。この子が生まれたころ以来だ。だからこの子には人間の物に興味を持ってはだめだと言っていたのに……」
「こんにちは、すいません」
心に言葉が伝わったのか、音に出して会話したのか、緊張していたので定かではありません。しかし、不思議な静寂が私たちを包み込み、木々のざわめきや野鳥の声も途絶えているように感じていました。そして、はからずも老人は雄弁に語ったのです――
「あれは七十年も前だろうか。この子が生まれた時には、この山の近くに住む人間たちの食べ物が無くなり、人間たちはわしらの山へ入り込んでは゛カタクリ(人間の言葉で)゛を採っては子供を養っていた。皆が優しく心が美しく、カムイと共に生きている人々だった」
「はい。それは戦争の食糧難の時だと思います」北海道の人々は戦時中の食糧不足から、美しき春の妖精の花と呼ばれる゛カタクリ゛の地中深い根をすりおろし
て゛デンプン゛を作っていたことを思い出しました。北海道では今でもデンプンのことを゛カタクリ粉゛と呼ぶことが多いのです。
「突然にすいませんでした。誰にも言いません。もう帰ります」
私は、してはいけないことをしたような罪の意識を覚えました。きっと若いほうの小人は恐怖に打ち震えているに違いなかったのです。その証拠に未だに微動だにしないでいます。しかし、私の言葉を無視するかのように老人は語るのです.
「あのころは人間とわしらは友人だった。うん。おまえのような人間がたくさんいたが、今は違う。人間からカムイが抜けてしまったのだろう。お前は山のカム
イを愛する者だ。何も心配はしていない。この子は人間とじかに逢ったこともないし、人間の言葉も知らんから臆病になっただけだ」
「ありがとう。おじいさん。また、いつか逢えるんですか? そしていつも山で聞こえる歌声は貴方たちの仲間の歌声ですか?」
「そうだ。わしらはカムイを信じる人間を誘うことがある。それは人間の生命が危ないときにだ。お前にだけは教えてやろう。わしらに逢いたければ山に流れる小川に花を流せ。たくさんの花を。そして祈るのだ」
それから老人は彼らに逢いたい場合の呪文を教えてくれたのです。それはどんな意味なのか私にはさっぱりわからなかったのですが、とても嬉しいプレゼントだと思いました。最後に私は聞かずにいられなかった質問をしました。
「おじいさんはいつごろからここにいるのですか?」
「わしが生まれたのはこのクリの木と同じころだ。そうだな、カムイに祈る人が居なくなったころだ。お前たち人間がこの大きな島へ来るずっと前に生まれた」
小人の二人は一瞬かがんだように見えて、そして消えたように見えました。私には、もう彼を追うことに意味が無かったので、道のほうへ歩きだしました。す
るとその刹那、山のざわめきや小鳥たちの声が再び優しく響きだしました。エゾ松の木にはシマリスが忙しく走り回っていました。
札幌在住の自由詩人 松尾多聞
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