陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

食えない学者ほど、文句だけは一流

2017-12-02 | 仕事・雇用・会社・労働衛生
2017年度の学校基本調査によれば、全国の大学の学部学生数は258万人。
日本の人口は2016年時点で1億2700万人ですから、その割合は約2パーセント。考えてみれば、ずいぶん小さい市場ですよね。日本の教育産業全体の市場は、2016年度、前年度比0.6%増の2兆5,162億円、順調に伸びています(株式会社矢野経済研究所による『教育産業市場に関する調査結果2017』)が、学習塾・予備校は微増。幼児向け教育サービスや大人に需要のある語学学校、企業向け研修サービスは市場拡大中。教育者といってもいろいろ働き方はあるかと思いますが、日本では、大学所属の研究者・教育者だけが神格化されすぎているきらいがありますね。そもそも日本の大学の国際競争力はかなり低下していますし。語学教室が盛況なのも、大学の外国語学部を出ても、学内推薦で留学しても、ビジネスで通用する英会話能力が身に着かないからです。あたりまえですよね、大学の学者先生たちのほとんどがビジネス現場で働いたことなんですから。

タイトルと前置きでお分かりになるかと思いますが、研究者の皆さまをこき下ろす内容です。
学者の皆様を敵に回す、ブラックオーラ全開の記事です。石でもなんでも投げといてくださいな。

今回の記事の素材は、「年収300万円「非常勤講師」が苦しむ常勤の壁 20年で100以上の大学の公募に応募したが… | ボクらは「貧困強制社会」を生きている」(東洋経済オンライン・2017年10月25日)。50代半ばになって任期付き教授職を追われ、再就職活動に励む研究者のお話。
かつて『高学歴ワーキングプア』もしくはその続編について触れましたが、いまでも、結論は変わっていません。キャリア選択のミスを、世の中のせいにしてはいけない。ハイステータスの職業に就けないからといって、「貧困」を訴えないでほしい。乞食学者です。

このもと「教授」の語りについて、気がかりな点を簡潔に述べます。
まず、第一に自身の研究分野の将来性を鑑みていない。児童福祉がご専門らしいですが、児童福祉分野が多い社会科学系学部や教育学部の実情は把握されているのでしょうか。少子化のこの時代、大学の教育学部は改変されています。財務省の圧力で学校教員ですら非正規ばかり。小学校教員採用は不人気で倍率が低すぎるので、能力に乏しい人材しか集まらないと嘆かれています(『「先生が忙しすぎる」をあきらめない―半径3mからの本気の学校改善』妹尾昌俊著・教育開発研究所・2017年)。 そもそも、保育士をみていたらわかりますが、子ども向け産業は待遇が低いです。サービスの消費者があまり高所得者ではないから、国が補助金を出して補填しなければならない。となると、質の悪い子ども向け教育者の待遇が低くすべきなのは当然なんですね。

第二に、かつてご自身が指導教官からの口利きを断っておきながら、コネ採用について批判していること。自分がそのチャンスを棒に振っただけです。過去を振り返っても仕方がない。とっとと次行きましょう。ちなみに、コネ採用は個人情報を扱う公的機関で身元が確かな人を雇いたいという思惑もあって、いまだに残っています。

第三に、彼の研究分野が求める人材にマッチしていないのではないか、という疑問。
子ども相手の学問って、女性が多いイメージなのですが…。民間企業で言うと、一般事務職に中高年男性が応募するようなものですよね…。残酷な言い方ですが、定年に近い男性を雇用するより、学生時代からボランティアに精を出したか、もしくは公務員で社会福祉事業の計画立案したことがあるような、若くてはつらつとした人を採用したいのでは。それと、この当人のなんとなく濡れ落ち葉っぽい語り口からするに、精神的に成熟されていなさそうですし、あまり、福祉関係は向いていないように思われますね。ホスピタリティがなさそう。

第四に、著作や論文数よりも教育者としての指導力が不足しているのでは、という疑問。
子どもの貧困みたいなテーマは新聞記者や週刊誌ライター、在野の教育アナリストでも書けますよね。政府とか海外の統計をとってきて、エクセルでグラフにして、あたりさわりのないことをさらりと述べるだけのお仕事。でも、大学が求めているのは、本を書く能力じゃないでしょう? 本だけ出したいのなら、著述業をやってりゃいいでしょ。

第五に、これはまったくの憶測なのですが。
この方の経歴がやや気になります。テレビにも出たことがあると書かれておりますが。『高学歴ワーキングプア』の著者みたいに、人生逆転ホームラン打つために、30歳近くになって社会人入学と学歴ロンダリングで博士号取得。全国各地で非常勤講師を転々。本の上でだけ、子どもの問題や貧困を語っているだけ─だったら、たぶん、あまりそのキャリア、評価されないかもしれないですね。

私が思うに、こういう方は、「大学教員」という職業にこだわり過ぎています。
まるで、大学に勤められない、高給取りにならないと、自分は人生負けだと思い込んでいる。教員にならないと、世の中を変えられないと信じている。こういう人、児童福祉に携われるとは思いませんね。明日食べ物がない家庭の気持ち、虐待された子どもの気持ち、発達障碍児の苦しみ、わかりますか? 自分の学歴(エリート私立大卒)を誇るけれど、我が子が国立大学しか受験できないのを嘆いているけれど、教育が受けられない他人の子どものことを当事者意識で思いやれますか? 採用人事者もそれを見抜いているのでは。(私見ですけれど、国立しか受けずに現役合格した自分からすると、滑り止めに私学を受験して入学料をドブに捨てる人は覚悟が足りません。自分を土壇場で追い込むことができないので)

大学はもはや、かつての学問の府というだけにあらず。国立大学ですら独立行政法人化ですから、経営能力のない基幹職員は要りません。自分の研究の希少価値だけをアピールするけれど、学生を産業界が求める人材に育成できず、研究資金を引っ張ってくるプレゼン能力がない人は適さないのではないでしょうか。

では、この人がどう生きていけばいのか。
著作が豊富ならば出版社にツテがあるので、本を売って稼げばいい。湯浅誠氏みたいにNPO法人を設立して弱者救済に励むとか、尾木直樹さんみたいに私設の教育研究所をつくって、タレント学者として売り出せばいい。けっきょく、あまり、大学の教育者として向かないし、研究者の使命を理解していない。門前払いされるならば、方向転換したらいかがか。

年齢性別問わず、昔っから、食いはぐれた学者崩れは一定数いました。
私の母校の大学でも、週1コマの拓本の研究をしている非常勤講師がいました。すごく穏やかでいいセンセイなのだけど、覇気がない。この人と同じ年齢ぐらいで、自分の貧乏自慢を授業にこぼす。教育者が己の貧しさアピールするのは、聞いている生徒からすれば尊敬の念を失います。武士ではないけれど、学者も食わねど高楊枝。ディオゲネスみたいに、哲学を語って毅然としておいてほしいもの。本当に社会に役立つ学問実績があったら、政府の顧問ぐらいに招へいされるでしょ。今の学者さんはね、アカまみれで、やたらと政府を馬鹿にしているから駄目なんですよ。

国立大学法人が複数の大学を経営できるように、文部科学省が制度改革に乗り出しています。大学の統合でなく、法人の統合ですので運営交付金の削減もできる。学生は互いの研究施設を利用できたり、法人傘下の他大学の優秀な教員から指導を受けたり、講義を受講もできるわけです。

非常に残念ながら、公立小中高を含めて教員の非正規採用は増え続けています。
その職業が将来、先細りする可能性が大いにあるということです。平成27年に厚生年金が一元化された(会社員、公務員、私学教員の年金を厚生年金にまとめた被用者年金一元化法:平成27年10月1日施行)のですが、私立学校教職員の加入する年金だけは、負担率が据え置きになっているんです。びっくりでしょ。政治家や日銀の幹部に私大出身者が多いから? 私大の教授の誰かが国の役人とコネがあってそうしたのか知りませんが。学生デモ団体を煽ったのも、たしか私大の社会学系や人文学系の教官たち。反社会的な人材を世に送り出すのならば、人文科学や社会科学の文系の教官は、数年ごとに入れ替えようと国が考えてもおかしくはないですね。学生の就職率もよくないですし。

大学教員の人件費は削減して、学生の授業料値下げを図るべきです。 
ノーベル賞級の実績を誇る研究者は総理大臣並みの待遇でもいいが、流行り廃りが激しく客観性のない人文科学や社会科学系学問は、サラリーマンの平均所得より低くてもよい。その代り、本を出すなり、講演をするなり、テレビ出演するなりで、才能を発揮して好きなだけ副業で稼げばいいではありませんか。自分で自分を養い得ない人は、人の上に立ち、人を導く仕事はできないでしょう。

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中央公論新社から、9月下旬、『大学の実力2018』という本が刊行されています。学部別の卒業生の進路も明るみになっています。
2017年7月14日の読売新聞朝刊の別刷に、その一部のデータが記載されていました。読売新聞が独自に2008年からはじめた調査で、当初は反発を招いたそうですが、大学の情報公開が進んで、受験生の選択肢が広がったそうです。いま大学に求められているのは、むやみに高い偏差値よりも、卒業生の正規雇用率。

わずか一握りの優秀な卒業生だけを広告塔にし、カリキュラムの充実を謳っている私学で、寄付金ばかり寄越せと請求され、豪華な建物はあるエリート意識は高いが実用性のない学生ばかりを量産する大学を、このまま放置しておいてよいのでしょうか。高い学費を掛けた我が子がニートや非正規のまま年をとっていくと、親御さんの老後の生活も危ないですよね。社会や経済産業界に求める大学の人材育成能力には、厳しい目が注がれています。多くの人が抱いている「文系(特に私立の)は役に立たない」という実感は、データで証明されているのです。就職率の悪い、人文科学系、社会科学系学問の見直しははじまったばかり。そこで雇用される教員も、従来型の学者タイプではない人材が求められていると、これから研究者目指して院進学する人も気づいてほしいですね。人生のリスクマネジメントは大事です。


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