陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ映画「サマーウォーズ」

2017-08-20 | テレビドラマ・アニメ
夏休み映画として定番だったのが、スタジオジブリの「思い出ぽろぽろ」か「となりのトトロ」か、もしくは「火垂るの墓」でしたが、最近はそのラインナップに加わるヒット作のアニメーション映画が増えてきていますね。まあ、欝々とした戦争映画よりも、楽しいものを消費したいのは、夏だから。今回は、2009年公開のアニメーション映画「サマーウォーズ」。

ひと夏に少年少女が異世界トリップで大冒険、しかも舞台はいま大流行の仮想世界。こう書けば陳腐に聞こえてしまうのだけれども、初見は予想外におもしろいものでした。いかにもヲタク受けしそうな題材なのに、大人もそこそこ観られるもので胸にじぃいんと湧き上がるものがあるところ。人工的な世界システムに振り回されるという古典的なSFにのっかりつつも、古めかしい日本人情緒にうったえてみたところ。合言葉は「よろしくお願いしまぁあああす」で、ポチっとな。

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都内の高校の物理部に所属する、高校二年生の健二。
憧れの夏希先輩から、田舎への帰省に連行してほしいと頼まれる。向かった先は信州上田。夏希の曾祖母・陣内栄の卒寿を祝う席で、親戚一同に身分を偽って婚約者と紹介されてしまう。
その夜、なにげなく携帯電話のメールに送られてきた数列を解いてしまった健二は、世界を混乱におとしいれる騒動に加担してしまう…。

最初の二十分あたりでは、やたらとリアルで鮮やかにCG処理された背景の重みと、立体感のない薄っぺらな人物造形(やたらとなめらかに動くこだわりはある)にうんざりさせられますが、話が動き出すと気にならなくなります。

時代は現代だけれど、仮想空間での行政サービスや軍事統括、コミュニケーションが発達した近未来。人びとは、OZ(オズ)という異世界で、アバターという分身にくるまれ、二重世界を楽しんでいます。
が、そこへ、他人のアカウントを盗みだして、システムを撹乱させる「ラブマシーン」というAI(人工知能)が登場。OZに生活上の管理を任せていた人びとは当然ながら大混乱に。なにせ公職のアカウントを乗っ取れば、その本人の権限まで奪えてしまう。隣国にミサイル発射することも、人類を人質にとることも可能。

事態を察知した健二は、夏希の親戚筋で格闘ゲームチャンピオンの佳主馬らの助力を仰ぎ、ラブマシーン退治に乗り出します。

電脳世界のことなので、敵方がさほどグロテスクでもないので、安心です。
世界の危機を招く元凶をたどれば、実はどこにでも転がっていそうな家族問題からはじまっていました。結果、身内の汚名をそそぐために、さほど昔気質な大所帯でもなさそうな旧家の一族が総出となって参戦。その勇気が全世界からの賛同をよび、奇跡の勝利をみちびきだします。
そのあと、最後の悪あがきともいえるラブマシーンの攻撃にも、屈せず恐れず、たちむかう健二がいいですね。

しかし、なんといっても、本作でアカデミー助演女優賞をあげたいぐらい、重要な役回りをしているのは、栄おばあちゃんでしょう。声が富司純子ですし。生きているあいだにも各界に強いパイプを広げていて国難に対処し、死してもなお、諸葛孔明がごとく、遺言によって家族を動かす。つきつめれば、大家族に受け入れられた少年と、つまみものにされてしまった男との戦いになるところを、母性愛によって救われているということ。ありえない設定だけれど、アナログに救われるというからくりが素敵です。

けっきょく誰も悪者にならない、責任は負わないような閉じ方なのですが、現実的に好奇心だけで小中学生が作成したウイルスが、企業や官公庁のサイトに打撃を与えるのが珍しくない時代。サイバー犯罪がけっしてファンタジーではなくなった現在、開発したプログラムがかってに暴走しただけと責任逃れはできないはず。行政手続きの電子サービスで個人情報漏れも指摘されています。
映画のなかで騒動は収まったけれど、OZ世界が消滅したわけではないですから、今後似たような事件が生じるかもしれない。「オズの魔法使」のヒロインの言うがごとく、「やっぱり、おうち(=現実世界)がいちばん」──アバターもネットゲームもよく知らない私はこう叫びたかったりもします。いまですと、フェイスブックにもツイッターにも自撮り画像ですから、アバターも廃れましたよね。

監督は「時をかける少女」(アニメ)の細田守。「橋本カツヨ」名義で、少女革命ウテナなどの演出を手がけられていたんですね。どおりで既視感のあるイメージが多いわけです。「ウテナ」の最終回あたりで、無数の剣が取り巻いていた場面を彷彿とさせるような。細田監督は、本作ののちの「おおかみこどもの雨と雪」や「バケモノの子」でも高い評価を得ています。

声優はタレント起用が多かったのですが、近年のジプリ映画ほど声ずれが気にはなりませんでした。陣内家のモデルはなんと真田家だそうで、昨年の大河ドラマ「真田丸」で描かれた第二次上田合戦のいきさつが、仮想世界での戦仕掛けのヒントになっていたりも。

2017年の現在、あらためて視聴してみますと、この旧家の大家族という設定が、いかに貴重なものであったか噛みしめます。昔は入母屋の本家に何親等かわからないような身内を集めて、お盆、彼岸、正月、冠婚葬祭のたびに食事していたんですよね。今の時代だと、無理にお付き合いしませんから、ふたいとこなんてもう他人同然で顔も知らない、そもそもいとこすらいないというケースも珍しくないですよね。親族が多すぎるのもそれはそれで面倒なことも多かったわけですが。昔はありふれたものだったはずが、アニメで再現されてはじめて、もはや得難いものになったと気づくと愕然としますよね…。


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