陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」

2018-04-15 | 映画──社会派・青春・恋愛

2005年のアメリカ・フランス合作映画「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」は、アメリカ国境を舞台にした友情のストーリー。
タイトルからなんとく「ハリーの災難」を思い出すのですが、こちらはサスペンスコメディというよりは、ヒューマンドラマですね。もちろんラテン系のノリでウィットはあるんですけど。

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テキサス州に不法滞在するメキシコ人カウボーイ、メルキアデス・エストラーダは、かつて親友のビート・パーキンスと堅い約束を交わしていた──自分が死んだら、故郷ヒメネスに埋めてくれ、と。そのメルキアデスが山あいの牧場で銃殺体として発見された。射殺したのは、新任早々の国境警備隊隊員のマイク・ノートンだった。
ビートはマイクを拉致して、むりやり掘り起こした死体を担がせ、メキシコをめざして旅立つのだが…。

当然ながら、国境警備隊が彼らを追いかけてきます。
しかも、約束の場所であるヒメネスの位置自体がわからない。残された写真に映るメルキアデスの愛妻へ夫の亡骸を届けようと必死になるものの、衝撃の事実が明らかになってきます。しかし、死者を冒涜するようなことはできない。

三度の埋葬とあるのは、罪もない人間が、生物としての死のみならず社会的にも抹殺されてしまったことを意味します。一度目は、誤って民間人を射殺し、発覚を恐れた新米警官が埋めてしまった。二度目はそれがジャッカルによって掘り返され、露見したのに身内を庇った警察がスキャンダルを恐れて封印してしまった。三度目には友情に厚い老カウボーイが彼の遺志を汲み、祖国の土に還そうとすること。

最終的にメルキアデスは埋葬されるのですが、やりきれなさが残りますね。
ピートの回想による、生前のメルキアデスのすがたは人のいい人物であっただけに、なおさらペーソスを掻き立てられます。
にしても、虫の喰いはじめたおぞましい死体とともに旅をするという男の強迫観念にも似た友情は、どこからやってきたのでしょうかね。ネクロフィリアに近いともいえますけど。契約も署名もない、ただの他愛のない口約束であったのに、命がけで男同士の誓いは守るという心意気に惹かれます。でも、日本人だったら、火葬にして骨と遺灰だけ蒔けばいいやって思いがちなんですけどね。

男の友情だけではなく、無念の死を迎えた者への畏敬の念、そして市民のいのちを蔑ろにする公権力へのアイロニーが込められています。マイクの罪は謝罪だけでは拭われるものではありませんが、妻が愛想つかして街を離れてしまったことがせめてもの報いといえるでしょうか。そして、主人公が友を死においやった犯人を許すラストがほのかに優しく胸に残ります。カウボーイらしい復讐劇に終わらなかったあたりが。

主演(ピート役)、監督はミー・リー・ジョーンズ。
彼の初監督作でカンヌ国際映画祭では最優秀男優賞を受賞。脚本のギジェルモ・アリアガも、最優秀脚本賞に輝いています。
共演は「プライベート・ライアン」の眼光鋭い射撃手が印象的だったバリー・ペッパー、ドワイト・ヨーカムほか。

(2011年9月29日)

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬-goo映画



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