陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

あなたの会社から、ひとが離れていくにはワケがある

2018-04-10 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

お仕事、お疲れさまでした。
「あなたの会社から、ひとが離れていくにはワケがある」というお題です。
最近、いろいろな自己啓発系の本やら経営者層向けの指南本が流行っていますけれど、そろそろ、こういうタイトルの本が出ないかな、と思っています。だって、多くの雇用者の皆さんはそう思っているはずです。今回は会社のために、多くの苦い涙を流したことのある方向けのお話です。

ある会計事務所の幹部社員(経営者二世)と話していたときのこと。
その会社は、県中心部に大きな自社ビルを所有した、有名な税理士法人。顧客には大手の医療法人もいて、営業網はひろい。しかし、人事担当でもあるその人は、最近、総務部の事務員が何人かごっそり辞めてしまって困っている、とのこと。

何気なく洩らした一言ですが、これって恐ろしい事態ですよね?
求人倍率がアップしているから、従業員が職場から逃げるリスクは生じやすくなります。社員は自分を大事にしてくれない会社を見きって、転職をはじめる。ひとがころころ変わるので、教育できず、業務全体にも支障がひろがってしまう。

この話者は男性で、当社は顧客本位をめざしている、顧客の発展なければ自社の発展はなし。そのために社員は切磋琢磨している、と高い理想をおっしゃっていました。しかし、私はこのひとと話しているとかなりの違和感を覚えました。ひとを和ませるような会話術でない。何かを言うと話を閉じようとするか、すぐ否定で畳みかける。管理職がこうだと、いっしょに働く人はかなり息苦しいはずです。クライアント企業に対して、節税策と称して、あこぎな経費抑制策(海外法人の社員にするか、基本給を低くして、社会保障費を削減する)や、事業承継・相続対策でありがちな、事業主に不要な生命保険を強引に売りつけている姿が予想されます。企業のネームバリューに惹かれて人が集まってはきますが、退職すると周囲から軽蔑され、家族からも孤立するタイプですね。年をとったら、かなり意地悪な顔になるだろうな、と推察できます。

このご当人はおそらくスキルが高いのでしょう。でも、彼をはじめとした幹部社員は、「自分の会社」というハコモノが好きですが、それを構成しているメンバーについて愛していません。機能だけが大事で、取り換え可能な部品だと思っている。雑用をおしつけ利用して、さっさと捨ててしまう。会社がそんな体質ですから、景気が悪い時には社員はしぶしぶ我慢してくれますが、景気が良くなると、さっさと逃げ出してしまうでしょう。会社の危険な兆候に目をつぶるだけの、イエスマンしか残らなくなります。それは、会社にとっても、社員にとっても、その顧客にとっても、大きなロスになります。

ひとを育てていけないリーダーは、ご本人が一流であっても、残念ながらその仕事ぶりは二流以下といえますし、パワハラまがいのことを行えば人間としてはド三品です。優秀な人ばかり集めたら、仕事がうまく進むのはあたりまえ。地頭のいい子を教えて、成績がいいのを自分の手柄のように吹聴する愚かな教師と同じです。お金かけて塾通いさせて教育ハラスメントまがいに子どもを叱咤激励して得た、子どもの学歴を自分の業績のように誇る親と同じです。優秀なコーチほど、教え子の成果を自分の手柄だとは誇らない。教え子の成長力を信じているからです。

個々人が成果を競い合い、他人の足を引っ張り合う社風になると、倫理観の高い人ほど会社に失望してしまう。ていねいに話しかければ協力してくれる人を排除して孤立させ、他人のスキャンダルなど無駄話に花を咲かせながら、それでいて、人手が足りないと嘆いていたりするのです。とくに女性(もしくはメンタリティが女性の男性)の多い職場にありがちですが、レベルの低い能力の競い合いをしている。女性は劣等感から、陰湿な復讐をしてくるものですし。華々しい業績を上げてくるスターばかりでなく、裏方で他人を助け、新人をきちんと指導できるような人はもっと評価されるべきなのに。業務のルールを勝手に自己流に変形してしまうので、指揮系統がバラバラで新人や部下が混乱する。しかも派閥をつくりたがるような分断がある会社は、ある日、社員が経営者層に反発して、辞めてしまいます。人間関係のイザコザは、多くの会社に珍しくない風景です。

最悪なのが、もと社員たちがかつての勤務先や経営者、幹部社員を恨んで、沈黙の復讐をしてくることです。最近は、転職サイトなどで会社の評判を書き込めるようになっています。応募者はもちろんのこと、その企業のクライアントも閲覧できますよね。ライバル社がわざと書き込んでいる可能性もありますので、完全には信用できませんが、参考にはできます。就職活動で面接に訪れた学生さんや、中途採用希望者だって、将来はその企業のお客様や、現在の取引先企業の幹部や経営者になるかもしれません。この視座の転換ができないまま、会社の顔でありつづけた社員が、会社を駄目にしていくのではないでしょうか。

若者が三年以内に辞めてしまう、という批判がありますが、離職率が高い企業にも問題はあります。最近は、電通事件などのように、労働者と企業をめぐっての訴訟が多く、ひとを大切にしない会社の評判は地に落ちます。しまいには、そこの商品やサービスを買ってくれなくなります。競合避止義務を定めていたとしても、辞めた社員が顧客をごっそり引き連れて、ライバル他社に転職する可能性だってあります。日本の消費者購買力が落ちていて、新品を買うよりも、中古品を消費者同士が売買したりするのも、消費者がもはや企業のブランド力を信用していなからです。

会社が自社のブランドイメージにこだわって社員を排除していったら、しまいには、自社を支えてくれるものが残らなくなりますね。どんなに美しい花も、それを咲かせる栄養を届けてくれる根や茎がなければ、存在すらできない。自分の組織が、自分たちエリートだけで動かしているという傲慢に咲く花は、いつか多くの人間の手で握りつぶされてしまいます。そして、会社が傾いたとき、経営者層が馬鹿にしていた人たちからはそっぽを向かれることでしょう。




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