すこし前の話になってしまいますが、
本当に不思議なご縁でお知り合いになった方から、
作品制作をご依頼いただきました。
ひょんなきっかけでお会いし、
身の上話などをさせていただく中で、
わたし自身に関心を持っていただきました。
昨年の私の個展にも足を運んでいただき、
そんなことを通じて作品制作をお願いしたい、
と言っていただいたものでした。
わたしの場合、作品をご依頼いただくときは、
できる限りご本人と直接お会いします。
その作品に対する気持ちや思い、
その文字を選んだ理由などを伺うことで、
ご本人だからこそ持ち得るいきいきした思いを、
作品制作に反映したいと思うからです。
正式に作品依頼をいただくことになり、
打ち合わせのお時間を頂戴しました。
今回ご依頼いただいた文字は
「道」
正直、これは大変なご依頼だ、と思いました。
「道」・・・
真剣に生きようとする人間なら必ずいちどは、
自分の人生を例えるものとして、
思い浮かべるのではないでしょうか。
仏教や神道、老荘思想などとも切り離せない、
書の作品としては、非常にメジャーな文字です。
この作品に対する思いなどもお聞かせください、
とお伝えしたところ、この方はなんと打ち合わせのためだけに、
わざわざハンドアウトを作り、持参くださったのです。
そこに記されていたものはその方が、
「道」という言葉から連想する言葉やイメージ。
さらに極めつけは
高村光太郎の詩、「道程」でした。
久しぶりに読むその詩は私の心に染み入り、
いつのまにか涙が一筋落ちていました。
今回のご依頼に対する真剣な思い。
「道」という言葉に対する真摯な思い。
自分ごときに充分に表現できるのだろうか・・・
そんな思いに、更に「道程」の素晴らしさが、
プレッシャーとなります。
あの高村光太郎と並べて恥ずかしくない書・・・
これはぼくには過ぎたご依頼かもしれない。
そんな自分と勝負する日々が始まりました。