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一昨日、東京シティフィルハーモニーさんと渡邊一正マエストロとのドヴォルザークチェロ協奏曲を、ティアラこうとうで演奏させて頂いて参りました。
特別な公演となりました。
今日のブログはとっても長くなると思いますが、ご容赦下さい。

前の記事にも書きましたが、私が初めてプロのオーケストラと協奏曲を演奏させて頂いたのが12年前、東京シティフィルハーモニーさんと飯守泰次郎マエストロとのドヴォルザークチェロ協奏曲でした。そして翌年にはタイにも一緒に演奏に伺い、そこで出逢ったタイのスーパーチェリストの紹介で数年後にはスイスに渡ることとなり…そんな想い出いっぱいのシティさんとの再会を出演が決まってからずっと楽しみにしておりました。

…しかし、公演に向けて日本へ到着するやいなや、わくわくした気持ちがサッと色を変える連絡が入りました。

「じいじょ」と私が呼ぶ、祖父の危篤の知らせでした。

空港から祖父がお世話になっている施設へ直行すると、水さえも受け付けられない苦しそうな祖父がそこに横たわっていました。いつも少し危険な状態になっても静かに復活し家族を驚かせる祖父ですから、なんとなくこのままずっと元気なんじゃないかと勝手に信じていたので、もう意識もなく死を待つのみという状況が信じられませんでした。

意識はなくても側に居ることは感じてくれていることがわかったので、少しでも側に居たい。でも、リハーサルもコンサートも待ってくれている、演奏に集中するために体力を整えるのも音楽家の仕事。祖父が横たわっている部屋から出る度に気持ちを切り替え、リハーサル、本番とシティさんと渡邊マエストロのおかげで、集中して演奏することが出来ました。感謝です。

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再会を心から楽しみにしていた優しいシティフィルのスタッフさんや団員さんと挨拶を交わすと自然に笑顔も戻り、とても救われました。
自分の出番ではない「新世界より」は、祖父との想い出を思い返し涙しながらも、渡邊マエストロの忠実な解釈とシティさんの丁寧な演奏で今まで聴こえてこなかった音もきこえてきてとても楽しく聴かせて頂きました。そして明るい気持ちにさせて頂くことが出来ました。

渡邊マエストロとは今回が初共演でしたが、とても誠実に音楽と向き合われているかたで大変弾きやすく、またコンサートマスターの荒井英治さんには実は学生時代からお世話になっており今回もその抜群のサポート力に脱帽&気持ち良く演奏させて頂きました。

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大好きな先輩や後輩、同級生との再会も多く、またつい最近NHKの収録でご一緒した素敵なフルーティストの竹山愛さんも首席フルーティストでいらっしゃり、とても贅沢でした!

そんな様々なことを祖父にも報告しながら「12年前は、この会場にじいじょも居たよね」と、携帯で録音した協奏曲のリハーサルを祖父に聴かせると、美しい旋律が出てくるたびに口角が上がり表情が柔らかくなりました。発表会のときから何回も聴いてもらったドヴォルザークです。

ちなみに、協奏曲の後のアンコールは、ドヴォルザークがアメリカの地で新しい世界にわくわくしたりチェコの故郷を想いながら作曲のインスピレーションを得たように、東欧を追放されアメリカ大陸に渡りまた望郷へ戻ってきているクレズマー音楽を弾き歌いしました。昨年祖父のお世話になる施設へ、スイスのクレズマーバンド仲間を連れて演奏に行きましたしね!

サイン会も素敵な時間で、初めましてのかた、最近よくいらして下さるかた、未来のホープの可愛い少年少女音楽家、そして12年前の公演もいらして下さり10年以上応援し続けて下さっている方々も数名いらして下さっていて…しみじみ時の流れを感じましたし、心からありがたいと思いました。

ここ数日間、祖父の側に居られない時間はいつ携帯に家族から連絡が入るか、また祖父の苦しみを考えると胸が苦しくて居てもたってもいられませんでしたが、祖父はコンサートが終わるのを静かに待ってくれていました。
そしてコンサートの次の日、祖父は「新世界より」を聴きながら、穏やかに旅立ちました。
静岡の伯母や従姉妹も駆けつけ、皆と太陽に見守られての最期でした。

今年の桜は散るのが早くて帰国に間に合わないかなと思っていたら、近所のしだれ桜が、ずいぶん頑張って待っていてくれました。
スイスから私の帰り、コンサート終わりを待ってくれていた優しい祖父と重なりました。

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こうして私はまた、シティさんとの共演に成長させて頂いたのでした。

ドヴォルザークの協奏曲、 これからもまたさらに深めて演奏させて頂きたいと思います。

この公演を様々な形で支えてご一緒して下さった皆様、いつも応援下さる皆様、本当にありがとうございました。
じいじょも、ありがとう。


明日はまた重厚なプログラムで臨むクローズドコンサートのため、リハーサルはじめバタバタしていますが、また祖父が見守ってくれていることでしょう!