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『ヘリコプターマネー①』三橋貴明 AJER2016.8.23

https://youtu.be/1UzK-Gn-vpU
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 ロイターで「経済政策は早期執行が必須、来年も10兆円の対策を」と語っていらっしゃる方がいて、
「何とまともな・・・」
 と、思ったら、藤井聡先生でした(^ ^;)

 

経済政策は早期執行が必須、来年も10兆円の対策を=藤井内閣官房参与
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1B43PP?il=0
 藤井聡内閣官房参与(京都大学大学院教授)は23日、ロイターのインタビューで、政府が今月決定した事業規模28兆円の経済対策について、15兆円と試算されるデフレギャップを埋めるためにはできるだけ早期に執行することが必須であり、来年度、再来年度も10兆円規模の対策を打つべきだと述べた。日銀に対しては、現在の金融政策を継続しつつ、マイナス金利について総合的に検証してほしいと要望した。 
 藤井氏は、安倍晋三首相の経済政策のブレーンの1人。
 同氏は今回の経済対策について、できるだけ早期に執行し、デフレギャップが完全に埋まるまでは財政支出をし続けることが重要であるとし「この2つが満たされれば、今回の経済対策はデフレ完全脱却に向けての重要な一歩となる」と述べた。これまでの経済政策では、支出の速度が十分ではなかったと指摘した。
 大規模な財政支出に財政規律の面から懸念の声があることに関し、「プライマリーバランス(PB、基礎的財政収支)については、2019年までは考慮せず、デフレ完全脱却を果たすための財政政策をしっかりやることが、2020年のPB黒字化にとって必要条件」だと述べた。(後略)』

 

 デフレギャップ15兆円の根拠は、先日の経済塾で取り上げましたが(インターネット受講の皆様、もう少々お待ちくださいませ)、ソシエテ・ジェネラル証券のチーフエコノミスト会田卓司氏が開発した「ネットの国内資金需要」に基づいているのだと思います。


 ネットの国内資金需要とは、企業貯蓄率と政府貯蓄率の合算で産出されます。現在の日本は企業貯蓄率がプラス化しており、それを政府の貯蓄率のマイナスではカバーできない状況になっています。その差が、対GDP比で約3%


 現在の日本は、国内の資金需要が15兆円ほど不足している状況にあります。すなわち、デフレギャップ15兆円です。


 今回の経済対策は「事業規模」28.1兆円とされていますが、確実にGDPを生み出す政府支出(いわゆる真水)は、16年度に6兆円強でしかありません。普通に考えて、デフレギャップは埋まらないでしょう。


 もちろん、やらないよりはやった方が良いに決まっていますが、
「真水を可能な限り少なくしたい」
 という財務省の意向をはねのけることは、完全にはできなかったようです。


 そういえば、クルーグマン教授がNYTのコラム(Abenomics and the Single Arrow)で、
『Never mind the third arrow: what we need is the second.(決して三本の目の矢に注意を払ってはならない。我々が必要とするのは第二の矢(財政出動)である)』
 と、断言していました。


 第三の矢とは、「structural reform」すなわち構造改革のことです。代表的な構造改革は、もちろん規制の緩和です。


 一昨日のエントリーでも書きましたが、
「需要が拡大しており、供給能力が不足しており、規制を緩和することで生産性向上のための民間の設備投資を誘引することができ、かつ安全保障に悪影響を与えない」
 のであれば、規制緩和は現在の日本にとって正しいソリューション(解決策)になります。


 経済産業省は、2030年までの技術の普及を念頭に、

■交通(自動運転やドローンの活用)
■健康(介護ロボットの普及)
■ものづくり(ITとロボットの活用)
■暮らし(家電の稼働状況に応じた発電)

 の四分野について、規制緩和について工程表を作るとのことです。


 逆に言えば、この手の新技術が普及し、国民生活に影響を与えるのは「2030年」という話です。例えば、運送業界の人手不足を受け、
「運送サービスは自動運転に担ってもらえばいいのでは」
 と、目の前の人手不足から目をそらすような反論をされることがあります。


 もちろん、将来的に運送サービスの人手不足が自動運転やドローンといった技術で補われることは否定しませんし、それを解説するためにわざわざ一冊(第四次産業革命)書いたくらいですが、問題になっているのは「将来の人手不足」ではなく「現在の人手不足」なのです。


 運送サービスの「現在の人手不足」は、サービス価格と賃金の引き上げで乗り切るしかありません。


 何を言いたいのかといえば、経済政策について「短期と長期をきちんと分けて考えましょう」という話です。藤井先生のインタビューにもありますが、例えばPBならば、
長期(2020年)のPB黒字化を達成するため、短期(2019年)までのPBは無視しましょう
 という考え方ですね。もちろん、PB目標などというナンセンスな目標は破棄するべきだと思いますが、政治的にできないのであれば、せめて「短期は無視する」必要があります。
 あるいは、財政政策の場合、やはり藤井先生が書かれている通り、
直近のデフレギャップを埋める財政出動と、未来への投資として、新幹線、高速道路、港湾整備、想定される震災に対応する投資
 は、やはりきちんと分ける必要があります。リニア新幹線建設のために財政投融資で資金をJR東海に貸し付け、名古屋-大阪開業を2037年まで前倒ししてもらったとしても、実際に工事(の前のアセスメント)が始まるのは2025年くらいでしょう。


 もちろん、それでもリニア新幹線は建設しなければなりませんが、少なくとも「2016年度のデフレギャップ」を埋める効果はないのです。


 現在の日本は、デフレによる需要不足と生産年齢人口比率低下による人手不足が「同時進行」するという、まことに珍しい状況にあります。だからこそ、国民そして政治家は、各政策の効果の「期間」について具体的に考え、推進していかなければならないと思います。まずは第一歩として、各種の経済政策について「短期と長期を切り分ける」から始めてみましょう。

 

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