先日、ETV特集「Love 1948-2018 ~多様な性をめぐる戦後史~」というNHKの番組を見ていたら、雑誌「薔薇族」50号記念号( 1977年3月号)に、寺山修司が詩を寄せていました。ただ詩の一部が放送ではカットされていたため、イマイチ良さが伝わらなかったところもあるので、全文をここに載せておきます。

 

(下記の赤字の部分がはカットされていました)

 

「薔薇族50号によせる読者へのオマージュ。世界はおとうとのために」

 

書かなくとも
それはたしかに存在している

  たとえば
  少年航空兵の片目をかくした
  眼帯のうらがわに

  たとえば
  刑務所で知りあったSの腕の
  薔薇色の傷口に

  たとえば
  マドリードから来た船乗りFの
  蝶の刺青のまわりに


  たとえば
  自動車修理工のMの
  灼けた背中のシャツの白地に

  たとえば
  寿司屋の板前の
  指の血のにじんだ包帯の上に

  たとえば
  警察学校の寄宿舎の便所に
  落書きされたむらさきいろの男根の横に

  たとえば
  泳ぎつかれて眠るプールサイドの
  運転手の息づくブリーフに

  たとえば
  花粉の匂いにまみれた中学生の
  自慰のてのひらの上に


「人間は約束をする唯一の生物である」
と、詩人は書いた

おとうとよ
ぼくはそのことばを反芻していると
だんだんわかってくるのだ

書かなくとも
それはたしかに存在しているのだ、と
いうことが